11 白馬の王子様
「おい、通れなくて邪魔なんだが」
振り向くと、サングラスをかけた、細身だが肩のがっしりした青年が路地に立っていた。
「今、ライブが終わって帰るとこなんだ、通してくれ」
「なら、さっさといきな」
「そうだな。ところでお前ら、子ども好きのロリコンか」
青年は、不敵にわらって相手をあおった。
「なんだー、やる気か! 」
ミルフィーユに絡んだ男たちは、青年に詰め寄る
勝負は一瞬だった……
青年は見事な体術で二人の男を投げ飛ばし、男たちは、その場に倒れてしまった。一方、ミルフィーユも地面にへたっている
「大丈夫か、ここは子供のくるとこじゃない」
「あ……ありがとうございます。でも私子供じゃありません。十六歳です」
青年は一瞬おどろいた、自分と同い歳なのだ。小柄で子供っぽい服装と容姿から、まだ十歳前後に見える。
「とにかくこの辺の夜は物騒だ、安全なところまで送ってやる」
ミルフィーユは、この青年も信頼できるのかと警戒し、おびえるように見つめると。
「心配するな、表通りを連れて行ってやる。それならいいだろ」
「あなたは……」
「俺はカイト、しがない運送屋さ」
カイトはサングラスをはずすと、へたり込んでいるミルフィーユに手を差し伸べた。サングラスを外すと、ややうつろなまなざしだが、精悍な顔立ちにミルフィーユは一瞬、体が熱くなったような気がした。
立ち上がると、並んで通りを歩いた。
周辺には酔った男や、柄の悪そうな大柄の男たち、濃い化粧で露出の多い派手な服装の女たちが道行く男に声をかけている。
こんな場所、ミルフィーユはとても一人では歩けないと思った。
並んで歩いているカイトを見あげると、たのもしく思え、図らずも見とれてしまった。
そんな自分に気付くと(ど、どうしたこと、こ…これは助けてもらって、ちょっと有難く思っただけの気持ちなのだから……)
カイトはそんなミルフィーユを見て
「どうした」
ミルフィーユは見とれているのに気づかれたかと思い、下を向いて
「そのー…どこに行くのですか」
「どうせ家出だろ。警察か保護観察官のところで、保護してもらうよう頼んでやる」
ミルフィーユは急に立ち止まり。
「助けてもらってなんですが、お願いです。そこは」
「だめだ! さっきのでわかったろ、ミドルサードは物騒なとこが多い、家出の娘が、悪い奴に連れて行かれてひどい目に会うこともよくある。悪いことは言わない」
少しもめていると。通りの向こうから、エリカとルナがやってきた。
「おや、カイトじゃない。どうしたの………あれ、可愛い娘さんつれて」
エリカは難民がくれた手作りのカゥボーイハットをかぶってご機嫌のようだ、
ルナもショーの仕事帰りで、あでやかな衣装のままだった。
「カイトにしてはめずらしいね、ナンパなんて。みれば可愛いけど、まだ子供じゃない、いつからロリコンになったの」
エリカがにやけながら言うと、カイトは
「ロリコンはないだろ、道に迷っていたのをこれから警察につれていくんだ」
するとミルフィーユは、少しムキになって
「私し、子供じゃないです。十六歳です! 」
エリカは、少しかがんでミルフィーユの顔を見つめて。
「へーそれじゃ、カイトと同い歳。そんな風にみえないねー」
ミルフィーユはなぜか、カイトとこの綺麗で胸の大きい二人の女性たちの関係が気になった。
「あー、ごめん、ごめん、ところで、見るからにお嬢さん風だけど、どうしてこんなとこにいるの。確かにあなたの来るようなとこじゃないけど」
ミルフィーユは真剣な目で
「探してるのです」
「探してる……何を」
「白い宇宙船です。この前、入港してきたスカーレット・タイプの宇宙船です」
エリカたちは顔を見合わせた。
エリカは
「どうして白い宇宙船を探してるの」
「乗せてほしいのです、私をクルーにしてほしいと思って」
エリカは腰に手をあて、一呼吸おくと。
「天のお導きかしら、私たち、その白い宇宙船のクルーなの」
ミルフィーユは一瞬信じられないようで唖然とし、横のカイトを見つめると、カイトもうなずいた。
「ほんとですか! うれしいー」
ミルフィーユは喜んだが、エリカは強い口調で
「でも、乗せることはできないわ。どこの誰だかわからない者を乗せるわけにいかないでしょ。それに、あなた、まだ子供だし」
「子供じゃありません、役にたちます! 」
ミルフィーユは必死で釈明を試みるが
「何、言ってるの。カイト、さっさと警察につれて行って」
「そ…そんなー………」
ミルフィーユはなんとか説得しようと考え、あることを思い出し、つぶやき始めた「軌道BHスイングバイの解析は、速度G4から衛星軌道を25.67度変換で、速度は光速の235.68分の………」
突然、話し始めたミルフィーユに、エリカは何のことかわからないが、ルナは驚いた。
「ひょっとして、ブラックホール脱出のとき通信してきたの、あなた! 」
ミルフィーユは気づいてくれたルナをみて、笑顔で何度もうなずきながら
「は……はい! 」
エリカとカイトも信じられない様子だった。あの難解な解析を行ったのがこんな少女とは
「ほんとなの、ルナ」
「うん、わからないけど。あの時のブラックホール脱出の軌道計算を言ってるわ。これを知っているのは、私と恐らくハッキングしてきた者だけ。まあ、ここではなんですし、少しお茶でも飲んで話を聞いてあげましょうよ」
エリカは仕方なく頷いた。
ミルフィーユは、少し露出が多いが、よく梳かれた長い髪と、落ち着いてどこか気品のあるルナに好感をもった。
さらに、自分を助けてくれたカイトを見ると、目があって思わず下を向いてしまった。
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