10 彷徨う少女

 ミドルサードに戻ると、難民の収容のことで交渉が始まった。


 エリカは難民を運んできただけなので、直接の交渉は難民の代表とミドルサードの役員たちで行われたが難行している。

 ミドルサードでは戦争の進行で難民が増えて、施設は満杯で、路上で生活する難民も増え、仕方なく難民はシャトルと格納庫で暮らすことになってしまった。


 エリカはミドルサードのなじみの役員に「なんてもんを、持ちこんでくれたのだ」と、いやみを言われたが、ギエスの口利きと、役員たちはエリカの父親からの付き合いもあり、なんとか黙認してくれた。


 さらに、三隻のシャトルは相当に痛んで、よくミドルサードまで持ったものといえる。外壁と一部の内壁にはひびが入り、最後は宇宙服を着てしのいだシャトルもあった。

 修理を行いたかったが費用がなく。 

 修理どころか難民たちのその日の生活費用を工面するため、働ける難民は町に出て仕事を探し始めた。

 エリカも難民からもらった金品を換金するため質屋を回ったり、小荷物の運搬、ルナはホテルなどでベリーダンスや歌を唄ったりしていた。


 そんなエリカたちを探している少女がいる。


 ☆☆☆☆☆


 しばらくして、難民たちの登録が行われるというので、脱走がばれるといけないミルフィーユは、シャトルを抜け出しスカーレットルナの入った格納庫に向かった。

 しかし、厳重に閉鎖され、中を見ることすらできなかった。


 しばらく、格納庫の前で待っていたが、戻ってくる気配がない。周囲の人に聞いても行き先はわからず、かといって難民達のところに戻るわけにもいかない。しかたなく、町に出ることにした。


 巨大な宇宙ステーションの天井は、黒ずんだパイプや電線が縦横にはりめぐらされ、明かりが薄暗く点灯している。ミドルサードは大きく三つの区画に分けられ、それぞれ時間が重ならないように消灯時間が設けられている。

 こうして人工的に昼と夜を演出し、ステーション全体としては二十四時間稼動していた。


 ミルフィーユの向かった町は、すでに消灯が始まり徐々に天井の電灯が消されていく。その代わり、路地には飲屋の看板が灯り始め、町は夜の顔へと変化していく。


 ミルフィーユは夜の街にしては目立つ姿だった。

 白いフリルのついたドレスのような服は一見してお嬢さん風で、猫ウサギのついたポシェットと花柄のリュックを背負って町を歩いている。町は、複雑な回廊のようで、さすがのミルフィーユも道に迷い、いつのまにか人気のない路地に入ってしまった。


(なんか、さびしいところに来ちゃった)


 ミルフィーユは、ポシェットからタブレット端末をだすと、自分の位置をナビゲートしはじめた。

 そのとき、頭の後ろから手が伸びて、ミルフィーユのタブレットが取り上げられた。ふりかえると、がらの悪い男二人がミルフィーユのタブレットをふりさげている。


「ちょっと、なにをなさるの。返してください」

 男は、顔を見合せてにやけると


「なにをなさるの、ってお嬢様かい。こんなところに、お嬢様がどうされたのですか」

 男はいやらしい目をしながら、からかうように屈んで背の低いミルフィーユに言った。ミルフィーユは眉間を寄せて相手をにらむように


「それは私のです、返してください! 」 

 必死に手をのばして取ろうとするが、大きな男を前に全く手が届かない。

「こんなところにお嬢様とは、俺たちが送ってさしあげよう」


(お兄様が言ってたとおりだわ。この辺境惑星群は、資源に乏しく環境の悪い星ばかりで、ならず者や貧乏人の行くとこだって。まさしくそのとおりね。ポシェットにスタンガンがあったから)


 ミルフィーユが、ポシェットに手を伸ばそうとしたとき、男の一人がミルフィーユの腕をつかんで上にひっぱりあげだ。

「いたい! やめて!」


「おっと、変なまねすんじゃねーよ、大方スタンガンでも隠しているんだろ」

 ミルフィーユは心臓が止まる思いがした。男がポシェットをさぐると、スタンガンを探りあて


「ほーら、でてきた。これが何するものか知ってるのか。結構痛いんだぜ、これを俺たちに見舞おうって思ったのか、その前に自分で試してみなきゃな」

 そう言うと、片手を釣りあげられた状態でスタンガンを頬にもってきた

「さあ、これで、おねんねしてもらおうか、その間にいいことしてやっからよ」


 ミルフィーユは真っ青になって

「や……やめて……おねがい……やめて」


「へへ、見ればみるほど人形みたいだな、これは高く売れそうだ。ライオンの檻の中に、ウサギの子供が入ってくるみたいなものだな」

 そのとき、男の背後で声がした。

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