9 脱走者
ルナは、しきりにアクセスしてくるものを感じていた。それは、以前レオン・リーと戦ったときにハッキングしてきた者と同じ感覚だった、
(シャトルからだわ。敵が乗り込んでいるのか………テロかもしれない)
ルナはエリカたちに心配かけまいと黙っていたが、しつこいのでメッセージを返した。
『あなたは、だれ。以前、交戦中にアクセスしてきた人ね』
メッセージが返信され、ミルフィーユはとりあえず、ほっとして、すぐに返事を出す。
(わたしは、シャトルに乗って難民に紛れ込んだのです。わけあって脱走してきました。敵意はありません)
『なぜ、アクセスしてきたのですか』
(今、私たちはブラックホールの重力に捕まっていると思います。おそらく、スイング・バイでかわそうとされているのでしょうけど、コースがまずいように思います)
『………どういうこと』
(近づき過ぎです、ブラックホールはある程度近づくと光も脱出できない領域、「事象の地平線」があります。そこにつかまると、いかなるものも脱出できません。それより外を通過する必要があります)
『確かに、そう言われると近づきすぎのような気もするけど………』
(ブラックホール中心までの距離は)
『2au(天文単位) 』
ミルフィーユはあぜんとした
(お願いです、私に解析させてください! そちらのコンピューターを使って、早くコースを解析しないと大変です)
ルナはおどろいて、状況をエリカたちに伝えた。
まずは、カイトが再計算するとミルフィーユの話した通りだった。
「しまった、どこで間違ったんだ、最初からやりなおしだ! しかし、さらに遠くを通過するため強い加速をすると、シャトルがもたない、そんな微妙なコースの計算は複雑で、普通の航海士に出来るレベルじゃない、しかも残された時間はあと十数分だ………絶望的だ」
カイトはさすがに行き詰って声が出ない。船の振動はさらに激しくなり、エリカは必死で操縦桿を操作しながら
「その人に解析してもらったら。それしかないのじゃない」
「ばか言うな、さっきも言ったろ。これは最先端の科学者でも数時間はかかるぞ」
とにかく、ルナはミルフィーユにメッセージを送った
『どなたか知りませんが、あなたの言われるとおりです。我々では解析が間に合いません。私の演算機能を開放しますから、お願いします』
ミルフィーユは、ルナからの返信を聞くと、危険な状態にも関わらず、あのコンピューターに触れる思いで胸が高鳴った。
送られてくるデータをもとに、スカーレットルナのコンピューターに入り込み計算を開始した。
ブラックホールの質量、大きさ、これに対しスカーレットルナとシャトルの大きさ、重さ、現在の位置、速度などからコースを解析した。作業をしながらもミルフィーユは驚くべき演算速度に、統酔する思いだった。
(すごい、一瞬にして答えが帰ってくる、こんな複雑な計算はラスタリア皇国のコンピューターでも数時間はかかる。あー……なんてこと、全くストレスを感じさせない、こんなの初めて)
今までに味わったことのない、快感に似た気持だった。まるで最初から回答を用意していたように、すぐに結果が戻ってくる。
ミルフィーユは数分で、結果をスカーレットルナに転送した。
エリカたちは驚いて
「ええ! もう解析できたの!……いったい何者」
エリカは送られたコース設定を入力すると、スカーレットルナは補助ブースターで姿勢制御を始めた。しばらくすると先ほどまでの振動が嘘のように機体が安定してくる。
「なんか、振動がなくなってきたよ。カイト、コースはどう」
「完ぺきだ………」
震える口調でカイトは言う。
「カイト、あんた、どんな計算してたのよ」
エリカは、少しからかう感じでカイトを見つめたが、カイトは考え込むように
「いったい誰なんだ、こんな悪条件で、ここまで理想的なバランスのコースに船を乗せられるなんて神業だぞ」
「恐らく、どこかの大学教授クラスか、学者さんじゃない」
カイトは、それ以上の人ではないかとも思えた。
無事ブラックホールを横切ると、エリカはコースを解析してくれた人を探すためシャトルに連絡したが、名乗りでてくる者はなかった。
試しに通信端末をトレースしようとしたが、厳重にプロテクトされてわからなかった。
「脱走って言うから、こんな敵の難民の中で、見つかったら大変と思ったのでしょう」
エリカは後ろのシャトルを眺めながら言うと。ルナは
「でもかなりの手の者よ。ラスタリア皇国、いや星系連合にもそういない人物と思うわ」
「たしかに………」
カイトもうなずいて、後ろのシャトルを眺めた、
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