7 司令官の願い
戦闘から帰ってきたエリカたちは、スカーレットルナを周りから見えない格納庫に入れると、ルナは人間にもどり、クラリスポートの控室で休んでいた。
ルナが、お茶のセットを持ってくると。
「エリカ。初めての空中戦にしては、いい腕じゃない」
「そうね、なんか、よく伯爵とドッグファイトしてたから、結構なれてるのよね」
「伯爵と………」
「そうなの、あいつしつこくって。荷物を運んでる最中にも迫ってくるのよ。それで、逃げたり、逆に反撃したりして。小惑星帯や、ガス惑星、場合によっては死ぬかもしれない思いをしたわ。でもその経験が役に立ったかな。まあ、あいつも少しは使える、ってことかもね」
しかし、エリカは気にとめてなく、そっけなく語ったが、ルナは何か思うことがあるようで少し沈黙した。エリカは話をかえ
「でもレオン・リーか、にくらしいけど強いわね」
ルナはお茶をいれて、カイトとエリカの前におくと
「そうね、でもあの程度なら、簡単に倒せるわ」
意外なルナの言葉におどろいたエリカは
「それって、私の腕がないってこと」
「いいえ、エリカの腕は確かだわ。あの、レオン・リーと互角だもの」
するとカイトが
「要するに、ルナさんの実力を百パーセント発揮できていない、ってことだろ」
「どういうこと」
エリカが一人不思議そうにしていると、カイトが答える
「スカーレットルナの航行能力、武器は一級品だがそれ以上のものが積んであるんだ」エリカはわからない、カイトは続けて
「もうひとつ空いてる席、コンピューターだよ。俺にはとても使いこなせないスケールのコンピューターさ。まあ、俺たちだけではスカーレットルナの実力の半分も出せてないだろうな」
「そ……そうなの。あれで半分! 」
エリカが呆れていると、ルナは微笑んでうなずいた。さらにカイトが補足するように
「でも、ルナさんのコンピューターを使いこなせるのは相当な者でないとだめだ。まず、こんな辺境の地にそんな優秀な人材はいないな。仮にいたとしても、俺たち貧乏運送屋では雇えないし、向こうから願い下げだろうよ」
カイトの話に、エリカは全く気にしていない感じで
「まあ、ここでは頭はいらないのよ、運搬はね、力! 力さえあればいいの。ルナ、気にすることないよ」
エリカの言葉に、カイトは
(俺たちが気にすべきことだろ)と、つぶやいた。
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ラスタリア皇国軍をしりぞけたエリカたちを、クラリスポートの幹部たちは作戦室によぶと
「なんとお礼を言ったらよいか、しかし、すごい戦力だ。そこでお願いがあるのですが」
エリカは、相手がお願いを言う前に
「戦闘はもうしないからね、私たち運送屋なんだから」
すると、幹部たちは、エリカたちがそう言うだろうと思っていたのか、微笑んでうなずき。
「わかっています。実は、市民たちを安全な場所に避難させてほしいのです。今回のように白兵マシンの進入を許すようでは市民を守ることができません。それに、民間人を輸送するのなら、よいのではないですか」
エリカは無言で聞いている。司令官は続けて
「ここには、女性子供、老人、病人たちなど、非戦闘員が九百名ほどいます。あの三隻のシャトルに詰めれば、なんとか乗れると思いますので脱出させてほしいのです。」
エリカは少し考えると
「確かに私たちは運送屋だけど、まだ駆け出しで、人を運んだことはないのよ。しかも、途中には危険な箇所が多い、この前も多数の犠牲が出たと聞いています。安全を保障できません」
「承知しています、しかしこのままここにいても、やられるのを待つだけです。次に相手が攻めてくる前に、逃がしてほしいのです。スカーレットルナの戦闘能力がいかに強くても、一機でこのクラリスポート全部を守ることは難しいでしょう。その前に非戦闘員だけでも助けてほしいのです」
エリカはすぐに答えを出せず、すこし考えさせてもらうことにした。
しばらく、エリカはルナとクラリスポートの中を歩いた。
コロニーの部分は破壊されているため、住民は要塞部分の狭く暗い機械の中で暮らしている。
子供や女たちは痩せていて、エリカが持ってきたジャガイモを、母親が自分の分を、せがむ子供に与えている。
「ルナどうしよう、この人たちを無事に送り届ける自信がない。シャトルには武器はおろか、防御シールドすらないのよ。小銃一発でも当ったら大変なことになるわ。ルナだって自信ないでしょ」
ルナは真剣な面持ちで
「ええ自信があるとは言えないわ。でもこのままだと、この人たちは飢え死にするか、敵にやられてしまうのよ」
「わかってる、ただ私が連れて帰る途中でやられたら」
「そうだとしても、だれもエリカを恨まないわ」
「ええ、そうでしょう。でも、私が・私が一生後悔しそうで」
エリカは呆然と天井を見あげた。そんなエリカにルナは
「あなただけじゃない、私やカイトさんだっている、エリカだけに責任を負わすことなんてしない。それに、エリカはこの人たちを置いて、自分だけ去ることができるの」
するとエリカはルナより数歩先に歩いて振り向くと
「そんなこと、できるわけないよね。さっきのやさしい、お母さんを見捨てるなんて出来ないよね………ルナ、また仕事お願い! 」
答えは決まっていた、エリカは自分の気持を聞いてほしかったのだ。
エリカはこうしてつらい気持を聞いてくれる、姉か母親のようなルナの存在が有難かった。
一方ルナは笑顔を見せながらも、沈んだ気持ちでいた
(わたしは、エリカを守るつもりなのに。こんな、戦場に連れてくるなんて)
ルナは一人、その重荷をしまい込んでいた。
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翌日、エリカは司令官に市民たちを運ぶことを承諾し、ミドルサードまで送ることにした。
住民たちは、三百人ほどしか乗れないシャトルに九百人がすし詰めで乗り込んでいる。兵士も無理すれば数人乗れるため希望者を募ったが、誰一人逃げだす者はいなかった。エリカはその様子をスカーレットルナのコックピットから、ぼんやりと眺めていた。
「ここの人たち、難民になるんだ」
ルナもさみしげな表情をしている。
「長年暮らした家を捨て、大好きな人とも離れ離れになって、あての無い生活が始まるんだ。それというのも……ラスタリア皇国の奴らめ」
エリカがラスタリア皇国への恨み言を言うと、カイトが意外なことを言い始める。
「エリねぇ、コンバットG が攻めてきたとき、気づかなかったか」
「あのゴキ虫ロボット……もう思い出させないでよ。でも、気づくって、なにを」
「あの機械、武器を持った俺たちには攻撃してきたが。無抵抗の市民には攻撃していない」
エリカは一瞬言葉に詰まったが
「でも、一つ間違えば大勢の犠牲者が出ていたかもしれない」
「まあ、そうだな」
カイトは、それ以上は言わなかった。
出発の時がきた。
残っていた市民は大部分が兵士の家族で、別れを惜しんでいる。
「よし、出港よ」
エリカは、操縦桿を握る手が汗ばんでいるのに気付いた。
自分の手に九百人の命がかかっている。そう思うと、いつもと違う重い重圧を感じるのだった。
三隻のシャトルを牽いたスカーレットルナは、宇宙空間へ進発する。
そのシャトルの難民の中に、偽装した宇宙船の残骸でクラリスポートに入り込んだ、銀髪でアイスブルーの瞳の少女が紛れ込んでいた。
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