5 ミルフィーユ

「あいつ、強い! 」

 エリカは思わず叫んだ。


 スカーレットルナはレオン・リーの攻撃をかわすのに必死だった。

 レオン・リーの戦闘機ユンカースは可変三角翼の単座式戦闘機で、制空、防空、対地、対艦に対応でき、大気圏での飛行も可能なマルチロール機だ。翻弄されるエリカは焦っている


「どこ! どこにいるの」

「エリねぇ落ち着け、上だ! 」


 次の瞬間、強くたたきつけるような衝撃が頭からきた。

 カイトがなんとか、防御シールドを張って防ぎ、エリカは体制を立て直すのに精いっぱいだった。エリカたちが相手の攻撃をかわしている最中にルナが


「戦闘中に悪いけど、さっきから何者かが私のコンピューターに介入してきている………」

「サイバー攻撃」

「うん、かなりの者よ」


 カイトは少し考えて

「レオン・リーには強力なサイバー攻撃をしかけてくる奴がいるって噂だが、大丈夫か」

「………うーん、大丈夫みたい」


 ルナが返事するが、エリカはレオン・リーの攻撃を回避するだけが精一杯で、それどころではなかった

「ほんとに大丈夫」

 エリカが聞くと、ルナは余裕で微笑み

「うーん、この程度なら大丈夫」


「そう、じゃあ、そっちは頼むね」

 そう言うとエリカはレオン・リーとの一騎打ちに専念した。


 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 そのころ、ミルフィーユは、驚愕していた。

「こ……これは!……進入させたプログラムが一瞬に解析され、破壊されていく。あんな小さな船に」


 もたついているミルフィーユに、レオン・リーが

『どうした。今回は、お気に入りのヘブンズレイの歌でも聞いて、手を抜いているのか』


「………」

 ミルフィーユは、レオン・リーの質問が耳に入らないようだ。


(演算速度は……推定2万ギガル、いやそれ以上か想像がつかない、これほどのコンピューターは、ラスタリア皇国いや銀河連邦にさえない、どうしてこんな小さな船に………すごい、無限といえる深い階層、絡み合うネットワークは複雑に、またシンプルに変化し、ひと時として形を留めない。瞬時にシステムがパスワード変換もされ。これでは進入しようがない。いや、相手がその気になれば、逆にこちらが取り込まれて逆ハッキングされる……我艦のコンピューターなど赤子をひねるようなもの)

 そのことを思うと、ミルフィーユは背筋が寒くなる思いがした。


 知らずに危険なサイトにアクセスしたようなもので、相手にそれだけの手練れがいないのが幸いだった。

 しかし、ミルフィーユは助かった安堵より、他のことを考え始めていた。


(桁違いだ………私は、これまで銀河最高水準のコンピューターを与えられていたが、それでもいらだつことが多い。しかし、これ以上の性能はこの世にはないと、あきらめていた。でも、あれなら自分の能力をフルに発揮できる。あれを使いこなせるのは私だけ、あの船は私に出会うためにきたのだ)


 ミルフィーユは魔女に魅入られ虜になったように、それは周りが何も見えなくなるほどの衝撃的なものだった。そんな、返事のないミルフィーユにレオン・リーは

『ミルフィーユ、どうしたのだ』


 我に帰ったミルフィーユは

「……ちょっと」

『ほー。お前が苦戦するとは』

「いえ……そんなことは」

『まあいい、少し疲れたのだろう。あとは私がやる』

「………」 


 レオン・リーは再びスカーレットルナにしかけた。

 ミルフィーユはレオン・リーに苦戦しているスカーレッットルナを見て


(あの白いのは、あれだけの性能があるのに、なんてざまなの………その気になればお兄様の戦闘機では、絶対に敵わない)


 ミルフィーユはうつむいて、いけないと思いつつも、どうしようもなく込みあげてくるものがあった。


 ―あの船のコンピューターを使ってみたいー


 ミルフィーユは椅子に深く腰掛け手をとめた。これ以上無駄な努力はすまいと。

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