4 撃墜王レオン・リー
攻め込むラスタリア皇国の巡洋艦では、攻撃をかわして単機で迫ってくる白銀の機影をモニターで捉えていた。
「突撃艦クラスの戦闘艇が一機突っ込んできます!」
「突撃艦程度に何ができる、早く撃ち落とせ」
巡洋艦の艦長は指示するが
「ことごとくかわされます。動きが早く対応できません。すでに、味方の十隻の突撃艇がやられています」
「あの一機にか! 」
艦長は驚いてモニターを凝視した次の瞬間、大きな衝撃が艦にひびいた
「第一、第二砲塔が被弾! 」
艦長は船の真横をすべるように交差する、白鳥のような白銀の機影を見た。その刹那、後方で衝撃が走り、一瞬電気系統がショートする。
「どうしたのだ! 」
「機関部をやられたようです。艦内のエネルギーが低下しています」
艦長は、その機影が自艦を離れ、随伴している駆逐艦を、次々に襲うのを成す術もなく見つめていた。
「何者だ。まだ連合に、こんな戦闘艇があったのか! 」
そのとき、別の艦船から通信が入ってきた。
『瀕死のクラリスポートに、何を手こずっているのだ。二百人ほどしか残っていない基地だろう。一瞬で征圧すると思っていたのだが』
通信の主は、後方で傍観しているガルーダ王国のイージス艦からだった。
「レオン・リーか! 後ろで観戦とはいい身分だな」
『いや、こんな無抵抗に近い相手など貴殿が簡単に揉みつぶすと思って、差し控えさせてもらったのだよ』
通信の相手の若い男の声はそっけなく、冷たい口調だった。艦長は通信を切ると。横の副長に、ぼやいた
「レオン・リーめ。今や属国に成り下がった、ガルーダ王国の王太子で皇帝陛下のお気に入りかしらないが、いい気なものだ………しかし、あの白銀の戦闘艇はなんだ」
艦長は思わぬ反撃に戸惑っていた。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
広い艦橋でレオン・リーはソファーのような艦長席に座り、足を組んで戦況を傍観していた。
くせのかかった銀髪、鼻筋がとおった端正な顔立ちは、真白い軍服と合わせ、若き王子の貴賓を漂わせている。横の士官に、艦隊がてこずっている理由をきくと
「どうも、白銀の戦闘艇が単機で暴れ回っているようです」
「白銀の戦闘艇………麗欄国にもまだ単機で奮戦する強者がいたのか。強力な戦艦、戦闘艇は全て、ラスタリアの巨大戦艦バルバトスの反陽子荷電粒子砲で片づけられ、星系連合全てを見ても雑魚しか残っていないはずだが。どんな相手だ」
「モニターに出します」
そこには、高速で飛び回るスカーレットルナの機影が映し出された。
「白鳥のような三角翼、プリンセス・タイプではないか。とても戦闘艇には見えないが、このような船にやられているのか」レオン・リーは微笑を浮かべて立ち上がり。
「しかし、気品ある美しい機体だ。よし、でる! 」
「リー様が直々にですか! 」
「優秀な兵器は、美しい形をしているものだ。私は、美しい物には目がなくてね」
レオン・リーは立ち上がると、艦橋を出る前に後方のブースに進んだ。
そこには、コンピューター端末を前にしたレオン・リーと同じブロンドの髪の少女が座っている。レオン・リーは、戦場には場違いな少女に目をやると、少女も気がついて
「お兄様、出るのですか」
「あー少し退屈したのでな。あの美しい機体が、私の相手にふさわしい、真の強者か見極めてくる。ミルフィーユよ、お前も暇なら相手のコンピューターにハッキングでもしておいてくれ」
ミルフィーユといわれた少女は、まだ幼さの残る顔立ちに白い肌、輝くような銀色の長い髪と合わせて、まるで人形のようだ。
ただ、そのアイスブルーの瞳は冷たく機械のようにモニターとキーボードを見つめている。
「でも、あの戦いぶり、まるで素人じゃありませんか。船は美しいですけど、戦い方は力任せで荒っぽいですし、野蛮ですわ」
「お前にもわかるようになってきたか。我がガルーダ王国は、ラスタリア皇国の属国となったが、あの戦艦バルバトスに反陽子荷電粒子砲を設置できるよう設計したのも、お前の力があってこそだ。しかし、奴らは………」
レオン・リーの瞳に鬱々たる色が伺える、それを見たミルフィーユは
「お兄さま、もうバルバドスのことは忘れましょう。ラスタリアは私たちが恐いのです。もし、戦艦バルバドスに私たちが乗り、反陽子荷電粒子砲を手にすれば、反逆も辞さないと思っているのでしょう。今は、おとなしくしているときです。それに私は、このような高性能のコンピューターを与えてもらえれば、それで十分です」
レオン・リーはミルフィーユのそばによると
「そうだな、おまえにはラスタリア皇国最大、最高性能のコンピューターを与えている。それを見事使いこなしているおまえは私の誇りでもある。さらに今回、実戦投入した、お前が設計した無人白兵マシン、コンバットGは、狭い箇所にも入り込めて動きもすばやい。しかも、美しい曲線のフォルムだと上層部から絶賛されている」
「うれしいです、お兄様。我ながら機能的で優美なマシンだと自負しています」
「それからミルフィーユよ、私が戦場につくまでに電子戦で相手を自爆させないでおくれ。このところ私が戦場につく前にほとんどお前の手でやられてしまい、私の出番がないのでな」
「そうしたいのですけど相手が弱すぎて、いつも簡単にやられてしまうのです」
「はは、そうだな。しかし、相手が弱いのではなく、お前が優秀すぎるのだよ。まあ適当にやってくれ。麗しのミルフィーユよ」
「はい、お兄様」
リーは笑顔で答えるミルフィーユの白い頬をなでて、艦橋をでていった。
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