3 要塞都市クラリスポート6

 スカーレットルナは、格納庫から発進ゲートに向かった。

 指定の発進カタパルトに着座し、準備が整うとゲートが開き、信号の青ランプが点灯したが、エリカは動かない。


 そんなエリカの手が震えているのにカイトは気付いた。初めての戦場で緊張しているのだろう。

「エリねぇ心配するな、俺たちがついている」

 カイトも腹を括ったようだ。


「な……なによ、心配なんかしてないわよ。それよりカイトこそ、こわくないの。へたしたら、死ぬかもしれないのよ」

「大丈夫さ、このスカーレットルナなら」

 正直エリカは怖かった。


 この前の海賊との小競り合いとは違う、相手には重艦船もいる。実際に死ぬかもしれないのだ。


 そんな中、カイトの落ち着いた態度と自信、「俺たちがついている」の言葉にエリカの恐怖は大きく薄れた。


 昔はおとなしくて、ひ弱なカイトを姉として守っていた。無論、コソ泥していたとは考えていない。強くなったカイトの成長がうれしかったが、少しさみしくもあった。

 それより、戦場慣れしているようなカイトの落ち着いた態度と自信は、どこからくるのだろう。


 でも、今そんなことを考えている暇はない。エリカは前方のゲートを凝視し、ロックを解除してスロットルをひいた。

 一方、ルナは沈んだ表情で

 

(どうして、また戦場なの、戦いなんかしたくない。もう、死神にはなりたくない………私は、エリカを守るつもりなのに、危険な目に合わせている)

 ルナの気持ちとは裏腹に、エリカは戦場たる宇宙へ飛び出した。


 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 すでに八機がスクランブルし、敵のドローン(無人戦闘機)と交戦している。苦戦しているが、なんとか持ちこたえていた。

 撃ち漏らした敵のドローンのいくつかが、クラリスポートに迫るが、クラリスポートの対空レーザー砲と防御シールドで、被害は今のところ軽微だった。


 カイトはエリカに

「ドローンは味方にまかせて、俺たちは艦隊の本隊をたたこう」


 エリカは戦闘空域を大きく迂回して、大型艦の集合している場所に回り込んだ。

 その時、スカーレットルナとほぼ同じ大きさの強襲突撃艦が十隻ほど向かってくる。敵はビーム砲を発射してくるが、エリカは不規則な動きでかわし、その間にカイトは落ち着いて敵の突撃艇にロックオンすると

「エリねぇ、いつでもいいぜ」


 するとルナが、不安そうに

「エリカ、突撃艇には人が乗っている。死んじゃうよ」


「何を言うの、前のようにお尻ぺんぺん攻撃だよね、カイト」

「ああ、急所は、はずしている」


 ルナがホッとした表情でうなずくと。スカーレットルナから数条のバリアブル・レーザー(可変軌道電磁砲)が放射状に発射された。

 レーザ砲はそれぞれ別の方向に湾曲し、十隻の艦船それぞれに向かっていく。次の瞬間、前方で閃光が連鎖的に発光し、その一撃で敵は沈黙した。


「突撃艇十隻を一撃とは。十対一ではものの数ではないのか。スカーレットルナとは一体………」


 カイトは一人唸っていたが、気がつくとスカーレットルナは、中央の巡洋艦に向っている。

「エリねぇ真正面からいくのか! 相手は巡洋艦だぞ!」

「だって、どうするのよ! 」

 すでに遅かった。

I

 完全に巡洋艦の射程に入ってしまい、放たれたビーム砲の条光が至近をかすめ、そのエネルギー波の残滓が不気味な振動となってスカーレットルナを翻弄する。


 エリカは、その不快で不気味な振動に耐えながら

「かわすわよ。喧嘩でもなんでも、相手の懐に飛び込むの」

 エリカは寸前のところでビーム砲をかわし、敵艦に肉薄していく。


 カイトはエリカの操船を後ろから見ながら、こんな曲芸的な操船は、船の性能と操縦技術だけでなく、相当な動態視力と判断能力、そして船との相性も必要となる。


 その全てを満たすエリカの戦闘能力は恐ろしく高く、人間離れしたところがある。

(まるで、戦うために生まれてきたようだ)

 カイトはそう思わざるを、えなかった。


 しかし、エリカ自身は、自分の能力をわかっていない。いや、わかってほしくないとカイトは思った。

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