3 要塞都市クラリスポート5

「どうしたの、あのゴキ虫ロボは」

「一体はなんとか倒した」


「あれを倒したの! どうやって、ハンドレールガンしかないのでしょ」

「出力を最大にして、急所をねらった。他の一体も足止め程度はしたが、もう銃のバッテリーがほとんどない」

 エリカは感心したあと


「しかし、ラスタリアめ、私の弱点を見抜いていたとは。あの視覚的威圧感は、かなり効果が高いのも事実だけど。あれを設計した奴って相当、趣味悪いわね」


「機能的なんだよ。薄く平たい形で這うから、正面から狙いにくいし、狭い隙間にも入って行ける」

「ますます、ゴキ虫そのものじゃない! 」

 そのとき、壁の隙間からゴキ虫マシンが這い出てきた。


「うわあぁぁぁーほんとだ! あんな狭い壁の間からでてきた、もう嫌だ! カイト足止めしたんじゃないの! 

「そんなに、もたないよ」


 ゴキ虫型ロボット兵器はエリカ達に迫ってくる。

 震えるエリカだが、意を決し

「そ………それより、奴の急所を教えて」


「エリねぇの銃は電磁ショック弾だろ、あんなのには、きかないぜ」

 エリカはおもむろに、ガンベルトの箱型になっているバックルのキー番号を合わせると、金色の銃弾が一発入っている。

 エリカはその弾をかざし


「マルチメタル徹甲弾。ゴキ虫用じゃないのだけど」


「それって。重装甲の戦車をも貫く弾丸。そんなもの持ってたのか」

 カイトはあきれ顔で驚いた。何に使うつもりなのか、そんな物を持っていたなど、聞いたことがない。


 エリカは四十四口径マグナムの円筒形のシリンダーをあけ、その弾を装填すると。

「カイト! 後ろに回るから援護して! 」

 叫ぶやいなや、有無を言わさず飛び出した。


 カイトは慌てて、残りわずかなバッテリィーのハンドレールガンで、自分に注意を引き付ける。

 エリカは、マシンの後ろに駆け抜けて立ちはだかると、両手で構えて狙いを定めた。


「死ね! 巨大ゴキ虫! 」


 エリカが叫んで発射した一発の弾丸は、正確にカイトの言う敵の急所を貫通すると、ゴキ虫型ロボット兵器は機能を停止した。

 カイトは真っ青になって


「み……みごとだぜ、エリねえ。でも、あんまり無茶するなよ」

「ハハハ、実は足が震えてる」

 エリカはひきつった笑いを浮かべていた。



 エリカとカイトが住民のところに戻ると、中から数人が前に出てきた。

 そこには、給仕にきた老婆もいる。


「あ……ありがとうございます。こんなときに、なんですが。みんなであなたに渡そうと集めたものです、ひどいことをしたお詫びです」

 小さな箱を渡され、中には貴金属が入っている。それを見たエリカは、うんざりした表情で


「私たちにひどいことして。それに、これだけじゃ全然たりないじゃない」

「エリねぇ、それは気持ちだぜ」

「気持ちよりお金。みんなには働いて返してもらわなくっちゃね」


 カイトも気づいたようで

「そうだな。死んだら返してもらえないからな」

 エリカはにやりと笑うと、そのおばさんに向かって。


「でも一応もらっとくね。私達も商売だし」

 そう言うと、カイトとともにスカーレットルナに向かって走った。


 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 基地内は対応に追われ騒然としているが、念のためエリカとカイトは身を隠して、スカーレットルナに飛び込んだ。


「エリカにカイトさん、大丈夫だった! 」

 戻ってきたクルーにルナは涙声で言う。

「大丈夫よ。それよりルナ、カイト、発進準備! 」


 カイトは自分の席に飛び込むように座ると、各種のスイッチを入れはじめた

「1番、2番、メインブースター始動。外部隔壁閉鎖! 」

 準備しているエリカ達にルナが申し訳なさそうに


「ゲート閉鎖されてるよ………」

 するとエリカは不敵な笑みをうかべ

「開けるように要求するけど。もし開けないなら、ゲートをぶち壊すまでよ! 」

 そのとき、通信が入ってきた。それは要塞の司令官からだ。


『手荒なまねをしてすまなかった。最後に、皆に腹いっぱいの食事をさせてもらったこと、それに住人を救ってくれたことに感謝する』

 エリカは、計器のチェックをしながら


「お詫びとか感謝はあと! でも、無抵抗の住民まで襲うなんて、噂さのとおりラスタリア皇国ってひどい奴らね。とにかく今、どういう状況なのですか」


『敵は。巡洋艦一隻に、駆逐艦四隻だ。それに、後方にガルーダ王国の艦もいる。ということは、おそらくレオン・リーもいる。いよいよ本気で攻めてきた、とても勝ち目はない』

 エリカは、レオン・リーと言う聞きなれない名前に

「レオン・リーって」


『ラスタリア皇国に味方……と言うより、早々と星系連合を脱退してラスタリアの属国となったガルーダ王国の皇太子だ。単座の戦闘機ユンカースに乗り、空中戦では無敵だ。光子ビーム砲を搭載し、ひとりで巡洋艦を撃沈したこともある。今のところ、後方で傍観しているようだが、やつに狙われて助かったものはいない』司令官は続けて

『後方のハッチをあける、そこから逃げてくれ』


「さっきも言ったけど、あんたたちに死んでもらっては、お金が戻らないのよね。前方のハッチをあけて! 」


『戦うつもりか! 相手は重艦船だ、そんな小さな船で何ができる』

 カイトもエリカを見たが、もう何を言っても聞かないだろうと思い、口を挟まなかった。


「大丈夫よ、このまえは海賊をやっつけてるんだから」

 エリカが言うと司令官は、責任は持てないと言って、前方のハッチをあけた。

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