9.星系連合の衰退
銀河系の中心から延びる渦の腕のひとつ、オリオンアーム一帯は、かつてラスタリア皇国を滅ぼすため、十二の星系が手を組んだ星系連合を組織していたが、十六年前のオリフィスの戦闘における主要国王の死後、まとまりがなくなり事実上形骸化していた。
一方、滅亡寸前だったラスタリア皇国は、この十六年間、ひたすら強固な軍隊を組織する。その間、分裂した星系連合は何の手立ても打てず、一年前、満を持してラスタリア皇国は、星系連合に宣戦布告した。
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星系連合の中心的存在にある、
絶妙な公転軌道にある青と緑の惑星と言われるこの星は、温暖で資源も豊富だ。そこは、人が宇宙に進出し、ハイパードライブによる恒星間航行の技術を手にして最初に発見された惑星であり、居住可能な星として群を抜いてる。その資源と、居住性を元に発展し、歴史的背景とともに
王国の神々しい中央宮殿で、黒の頭冠に白い深衣を着た壮年の宰相、サグリンが、若き王とその母の王太后の前で力なく語る
「とうとう、のど元に刃を突き付けられた状態です」
十六年前のオリフィスでの赤き死神の一撃で国王が亡くなった後、サグリンは即位した幼少の王を助けて麗欄国を率いてきたが、限界を感じていた。
サグリンの言葉を、まだ幼さの残る十五歳の少年の国王と、王太后は、青ざめて聞いていた。
「私達はどうなるのですか」
震える口調の王太后に、サグリンはどことなく事務的に話を進める
「麗欄星系の全軍を、この本星に集結しています。しかし、向かってくるのは、ラスタリア最強の第三艦隊です」
「第三艦隊! すでに四つの星系を落とした。あの、鬼のハルゼー……」気絶しそうなくらいに震えながら
「他の星系は、助けに来てくれないのですが」
「すでに半数の星系が降伏、あるいは属国として服従し、他の星系も第一、第二艦隊を相手に身動きできません」力なく語ったあと
「十六年前のオリフィスで、あと一息でラスタリアを壊滅できたのに、休戦を受け入れてしまった。あのとき、潰しておくべきだったのです。一方、星系連合の国王達が集合する千載一遇のチャンスをものにした、赤き死神の一撃は、あまりにも大きい」
「あのとき、私は国王である夫を失いました。赤き死神は憎い……でも、平和を願って、ラスタリアと融和を進めてきたのに」
きれいごとを言う王太后に、サグリンは口にしないが(エセ平和主義者に騙され、若い少年の王に過干渉し、一人では何もできない王子に育てた、過保護で無知な王太后)と思っている。
さらに、サグリンはラスタリアを討つよう、これまで何度も主張したが、王族の穏健派に反対され、叶わなかった。
すると、王太后が思い出したように
「そう言えば、最終防衛線のクラリスポートが、攻め込まれていると聞きましたが、どうなっているのですか。あそこにはまだ市民も残っていると聞いてます。助けには行けないのですか」
「援軍を送るために劣勢の我軍を割くことはできません。やむなくラスタリア皇国に降伏するよう伝えましたが………」
「どうなったのです」
「敵は受け入れません。あくまで殲滅するつもりです。一度、市民を逃がそうとしましたが、途中でラスタリアの仕掛けた、機動機雷に全滅しました。十六年前に我々が惑星オリフィスの住人を皆殺しにし。そのときラスタリア后妃のエストナを殺害したことを、恨んでいるのかもしれません」
王太后は、そのことは初めて聞いたようで
「オリフィスの住人や后妃を皆殺したのですか! ならば、私達も……」
王太后は青ざめている。
サグリンは、そんなことも知らないのかと、政治に無関心な王の母親の無知さに呆れたが
「それは、やむを得ないことでした。オリフィスは危険な星でした。あそこでは、人と兵器を融合させる卑劣な人体実験が行われ、そこで開発されていた兵器は、銀河のパワーバランスを覆すほどのものです。この世界から消し去るべきものです」
王太后は、納得したようで力なくうなずくと
「このあと、どうなるのですか」
「今は戦力を本星に集中しなければなりません。クラリスポートは見捨てるしかありません」
王太后は小さくうなずと、小声で
「………私達はどうなるのです。鬼のハルゼーは、王族を全員処刑していると聞きます」
サグリンはしばらく逡巡したあと
「最善はつくします」
それだけ答えると
「だれも、助けてはくれないのですね………」
王太后は両手で顔を覆って震えている。
サグリンは、うなだれたままの王太后に深く頭を下げ、中央宮殿の王の間を後にした。
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