10.サグリンとナディア
うなだれる王太后を後にしたサグリンは、気休めでも「なんとかなるでしょう」と言えば良かったのだろうか。
少し後悔もしたが、甘言をすることもあるまいと思った。ある意味、身から出た錆だ。
◇
サグリンは王太后との謁見のあと、ある人物との待ち合わせの部屋に向かった。
そこには二十代後半であろうか、輝くように梳かれた腰まである黒髪。和装の麗欄国とは対照的な、スレンダーで女性的な体にフィットしたブレザーにタイトなスカート。鋭い瞳に、アンダーフレームのメガネをかけた、見るからにキャリアの女性だった。
サグリンは同行している副官から、データチップを受け取るとその女性に渡し
「ナディア調停官、ご依頼の品を持ってきた。これが戦線を避けたクラリスポートへの異相空間転移ルートのデータだ。ただし、このルートもラスタリア皇国の手が回っている、先般も避難しようとした船が機雷に全滅している」
「そのようですね」
ナディアはこともなげに言う。サグリンは事情を知っていることが意外だったが、そのことは言及せず
「どのようにしてクラリスポートを救うのだ、相手はハルゼー艦隊だぞ」
「それはまだ聞かないでください、うまくいくとも限らないので」
「そういう約束だな。私も親友の某閣僚に言われて協力しているだけだ」
「ありがとうございます。でも、準備は着実に進んでいます」
用事を済ますと、ナディアは一礼して、さっさと出て行った。
スタイルの良いナディアの後ろ姿を見送ったあと、サグリンは
「そっけないな。食事でもと、思ったが」
横の副官が笑っている。サグリンも苦笑いした後
「溺れる者は藁をもつかむだな」
つぶやいたサグリンに、副官が
「信用できるのでしょうか。彼女にはいろいろと噂があります」
「私も聞いている。非合法の武器商人でもあるらしいな、あの美貌もあってか、要人にコネもあるようだし」
「そのようですね、でも何をするつもりなのでしょう。どうも、過去のオリフィスのことをしきりに探っていたようで、特にスカーレット・エクシードの消息を」
「赤き翼の死神か……あれは、撃墜されたことが確認されている。いずれにしても、一調停官に大したことは出来ないだろうが、やり手のことは確かだ。貸しを作っておいて損はないだろう」
「そうでしたか。しかし、あの若さで調停官とは」
「ああ、かなりの秀才だ。戦争孤児らしく、ろくに学校も出ていないのに難関な国家試験をトップの成績で通過してきている。ただ者ではない………」
そこで言葉をとめると、話題をかえ
「しかし、もう麗蘭は終わりだ。臥薪嘗胆して軍を強化してきたラスタリアに対し、優秀な国王や指導者を失った星系連合は分裂し組織立った戦略が全くできていない。その弱点をついて、ラスタリアは大軍で各個撃破している。私も先代の王には世話になっているので、何とかしたいのはやまやまだが……」最後は目を伏せると。
「我々が殉じることもあるまい」
副官も、うなずいた。
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