6.宇宙(そら)へ
「おどろかれたでしょ。見ての通り私はこの宇宙船……というより、この宇宙船と融合できる人間と言った方がいいかしら」
「そんなことが……それに、なぜ突然船が現れたの」
「そうですね、宇宙船自体は最初から飛行場の上空に浮かせていたのだけど、光学迷彩で視認はできないし、高度なステルス機能があるので、この星の管制システムのレーダー程度でしたら、補足することはできないでしょう。私の神経は常にこの船とリンクしていて、体が宇宙船と融合したとき、船は実体化することができるの」
ルナの説明に、エリカはまだ半信半疑だ。
父親から、タダほど高いものはないと、よく言われたものだった。
「こんな、リムジンのような船に乗せてくれるなんて。まさか、お尋ね者とか、追われている、なんて、訳ありじゃないでしょうね」
「そんなことないです。私にふさわしいクルーを探していたのです、本当です」
ルナが答えると、エリカは先ほどから高鳴る胸を抑えるため、ひと呼吸おいて
「あなた悪い人じゃなさそうだし、とりあえず信じましょう」
エリカはカイトにふりむくと、カイトもうなずいた。ルナがほっとした表情をすると。
「ありがとう、確かに腑に落ちないでしょうね。でも、意図があってエリカさんに船を任せるつもりはありません、エリカさんに乗ってもらいたい、それだけです」
「わかったわ。でも、ほんときれいな船だね」
エリカが微笑んで言うと、ルナは
「きれいなだけじゃないのよ。異相空間転移航法によるハイパードライブ(超光速飛行)で恒星間飛行ができるし……」続けて小さな声で「……一応武器もあるの」
「プリンセス・タイプって、お姫様や高貴な人の専用クルーザーだし、どうせスペースデブリ破砕用の小銃でしょ。前の海風にも積んでたけど、ほとんど使ったことなかったし。どちらにしろ武器なんて私たちには関係ないけどね」
そっけなく言ったつもりだったが、ルナはその言葉が嬉しかったようだ。
「ところで船に名前はつけているの」
「今は私の名前をつけて、スカーレット・ルナ、としてる」
「今は…」
少し引っかかるエリカだった。
それに、白の船なのにスカーレットとは解せない。エンブレムの三日月が、赤だからだろうか。
疑るような表情のエリカに、ルナは焦ったように話題をかえようと
「それより、飛んでみない」
エリカの待ち望んでいた提案だ。先ほどから飛びたくて、うずうずしていたのだ。
「うん、お願い! 」
「じゃあ、基本操作を教えるね」
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
ルナは、モニター画面などで、スカーレットルナの基本構造と操縦法を伝えた。
船体の構造については、ブラックボックス的な箇所があり、ルナ自信もよくわからないと言う。
カイトも、船と一体となっているルナ自身がどうなっているのか調べてみると言うと。どうも、今のルナは服を着ていない姿で、体のいたるところ管で繋がれ、カイトには絶対に見てほしくないらしい(刺激が強すぎる、とのこと)。
一方、エリカは、そんな構造的なことは、どうでもよく
「操縦は案外簡単ね、それに前の船の操縦方法に近いし」
初めての船とは思えなかった。まるで海風の操縦方法を移したようにさえ思えた。
一通り説明を終えたあと
「とにかく飛びましょうか。エリカさんは体で覚えるタイプみたいだし」
エリカは操縦桿をにぎると、二つのメインエンジンを起動させると、機内に静かな波動が響き渡る。それは、宇宙船が日常のエリカ達にとって気持ち安らぐ、子守唄のようなものだった。
さらに出力をあげると、機体がゆっくり動きはじめる。
そのまま滑走路の端までいくとターンし、眼前に真っ直ぐにのびる滑走路のコースラインと地平線を見すえ、こみ上げる感情とともに一気にスロットルを引く。
光子エンジンの出力は、子守唄から一気にファンファーレのように盛り上がり、後方二つのメインエンジンからプラズマ粒子を爆発的に放出し、スカーレットルナが発進する。
優雅な船体からは想像できない、力強い加速力でスピードが上がり滑走路を快走すると、エリカは地面からの小刻みな振動で、しっかり握っている操縦桿を引き、機首をあげた。
ふっと体が浮く感じと共に振動はなくなり、地面が瞬く間に離れると、ほとんど揺れもなく高度を上げていく。
「すごい加速力なのに静かだ。もう高度二万メートル」
カイトがうなった。
さらに上昇すると平らな地平線が次第に大きな円弧の形に見えてくる。風の音が消え、スカーレットルナの光子エンジンの音が、再び子守唄のように船内に静かにひびいている。
「レスポンスもちょうどいい、海風とは、耕運機とリムジンくらいの違いだわ」
無邪気に操縦するエリカにルナは微笑んでいた。
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