5.インクルージョン
翌朝、エリカはサングラスをかけ、愛用の2,000ccVツインのバイクに颯爽とまたがる。
カイトがサイドカーに乗ると、腰に突き上げる振動と、朝の静寂を砕く荒々しいエキゾーストノートの重低音を響かせ、砂煙とともに飛行場に向かって爆走した。
◇
飛行場はここ数日、離着陸の予定がないので閑散としている。
到着すると、ルナが朝日を背に、低い太陽からの長い影を滑走路に落として立っていた。風に揺らぐ髪、フレア・スカートのすそが波打ち、そのシルエットは羽衣をなびかせ、空から降りてきた天女のようだ。
エリカ達が近づくと。
「来てくださって、ありがとう。ああ! そこで止まってください」
離れた位置で、ルナは手でエリカたちを制止した。エリカは、腰に手をあて、うさんくさそうに。
「ねえ、船なんて、どこにもないけど」
ルナは微笑んで
「目の前にありますよ」
「………冗談はよしてよ、目の前って、あなたしか、いないじゃない」
すると、ルナは真剣な瞳で
「私が宇宙船なの」
何を馬鹿な、といった表情でエリカたちが唖然としていると、ルナは眼を閉じ両手を上にあげ、次にゆっくりと横にひらいた。同時にルナのまわりに小さな光の粒が舞い始める。
エリカとカイトは息をのんでルナの変化を見つめた。
光の粒はルナを囲むように増えていく、光彩に包まれ両手を胸で合わせて祈るように言葉を紡ぐと、ルナの頭上に光が移動し、次第に大きく渦を巻く。その光が、ぼんやりと大型旅客機ほどの三角翼の形に浮かび上がると、ルナは上を向き
「インクルージョン! 」
叫ぶように言うと、体のまわりを幾重もの光の帯がルナを包み込み、ルナ自身は光の中でかろうじて体の輪郭だけが確認できる。
光り輝くルナはゆっくり上昇し、その船の中に溶け込むように吸い込まれると光彩は消え、頭上に白銀に青と淡い赤のラインの入った機体が実態となった。
それは、白鳥が首を伸ばして飛んでいるようなスレンダーで滑らか胴体のラインから、ドレスの裾のような三角翼が広がり、その翼の後ろに二機のエンジンが埋め込まれるように付いている。
全体に女性的な機体の機首には赤い三日月に座る女神のシルエットが描かれていた。
エリカは、現れた宇宙船を見て唖然とし
「こっ………これって! 王族や貴族のお姫様専用のプリンセス・タイプの宇宙船! マジ、マジ、マジ! 初めて本物を見た! なんて美しいの! 」
興奮して叫んでいる。カイトも茫然と見とれていた。
船はゆっくり着地すると、胴体横の扉があき、タラップが降りてきた。
「どうぞ、私に乗って」
ルナの呼びかけにエリカは恐る恐る階段をあがって中に入ると、明るい通路に、ひざ上までの白い薄衣のワンピース姿のルナが立っているが、立体映像(3Dホログラム)のようだ。
「船の中では3Dホログラムで私の姿を映すようにできるの、一緒にいる感じがするでしょ。さあ、コックピットへ」
ルナの後ろをついて通路を進むとハッチが開き、中に入ると意外に広いスペースに、中央前にひとつ、後ろに二つの三角に配置された操縦席がある。
前方には大きなモニターがあり、中央の操縦席はモニターの中に突き出して浮いている形で配置され、操縦席からは上下左右、後方の広い視界が確保されている。
全体に明るい空間で計器版は少なく、白を基調としたライトブルーと淡いピンク色の曲線で構成される清潔でやさしい感じのコックピットだ。エリカとカイトが見とれるようにコックピットを見渡していると
「どうぞ座って。エリカさんは中央前の主操縦席ね、カイトさんは、左後ろの副操縦席がいいでしょう。一席余っているけど、私も補佐するから、通常の航行に全く支障ないわ」
エリカとカイトは言われるまま、各自の操縦席に座った。
操縦席の横に、浮いた状態でホログラムのルナが微笑んで立っている(幽霊のようにも見えなくもないが…)。
今までの宇宙船は、計器類が無造作にたくさんあり、狭く灰色の船内にひしめくように生活していたが、まるでホテルのロビーのようだ。
エリカは先ほどがら動悸が止まらない
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