4.ルナの秘密

 その後、保安官が来ると「またエリカか……」と騒動の主に辟易し、男三人を気絶させ病院送りにしたエリカは「あいつらが悪い! 」と、周りにも同意を求めて必死で言い訳していた。


 保安官が事情を聞いて立ち去り、騒動が収まると、ルナは近くに人がいないのを見て

「小耳にはさんだのだけど。エリカさん、宇宙船を失ったのでしょ」


「え……そうよ」

 エリカはいやなことを聞かれて少し不機嫌になった。慰めとかは苦手なので、話題にしてほしくない。

 すると、ルナから思いがけない話がでた。


「そのー。よかったら、宇宙船いりませんか」


 ………!


 エリカとカイトは一瞬言葉がつまった。

「急に突拍子もない話を。あなた、私をからかってるの」

「そんなことないです。まじめに話してます」

 エリカはあきれて。


「初めて会った人に、いきなり船をあげるなんて、普通は信じられないでしょ」

「そうですね、助けてくれた、お礼ではだめでしょうか」


 とってつけたような理由に、エリカは腕を組んでため息をつくと。

「はいはい、わかったから。その船どこかの子供にでもあげて。それじゃあ、私まだ食事の途中だし」

 エリカは、どうせ、おもちゃと思い、その場を離れようとしたが、ルナはあわててエリカの腕をつかんで


「まってください! 信じられないでしょうけど、本当です。助けてくれたお礼だけではありません、あなたはふさわしい人です。とにかく、だまされたと思って見るだけでも」

 必死に懇願するルナを前に、エリカも見るくらいならと思い。


「わかったわ。どうせ暇だし、その宇宙船っていうのを見せてもらいましょうか」

 ルナは両手を合わせて微笑むと

「それじゃあ、明日の早朝、飛行場にきてください」

 エリカが頷くと、ルナはエリカの手をとり


「ぜったい来てくださいね。きっと気に入ってもらえると思いますから」

 ルナは念をおすと、踊るように町の中に消えていった。



 過ぎ去ったルナをみて、口を挟まなかったカイトが

「エリねぇ。昼間、空港に使える船がないか見てきたけど、牽引用の貨物シャトルくらいしかないぜ。それにルナさんは、昨夜ここに来たようだが、この一週間に旅客用はおろか、他の宇宙船の往来もない、自分で宇宙を飛んできたなら別だがな」

 最後はとぼけるように言うと、さすがにエリカも考え


「まあ、襲われることもないでしょう。でも、さっきルナさんから聞いたけど、私が相手の効き目を見抜いたこと、よくわかったね」

「エリねぇの考えることぐらい、だいたい想像つくさ」


 いつもぼんやりしているカイトだが、時に、するどい洞察や、判断をしてエリカを助けてくれることもある。


「カイトはいろんな点でマメだけど、そのマメさを女の子に向ければねぇ。いつもボーっとしているけど、背は高いし、こう目をキリリ! としたら結構イケメンなのになー」


 エリカが自分の目を指で釣り上げて言うと、バカ言うなといった風に、カイトは無視した。


 その後二人は、半信半疑なまま、ルナの消えた薄暗い石の壁の通りをしばらく見つめていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る