3-2.真夜中の決闘(後編)

 *****


 男は大きなビームガンを腰に下げ、体を揺らせて、ヘラヘラ笑いながら近づいてくる。

 一方、エリカは何事もないかのように、スペアリブをしゃぶっているが、男達は眼中にないようで、ルナの横にたつと。


「よー、ネーチャン、べっぴんだね。さっきの歌よかったぜ。どうだい一緒に飲まねーか」

 手をとろうとし、ルナはおびえるように体をすくめた。


 エリカは腰の銃に手を伸ばすと安全装置をはずし、気取られないよう相手を観察する。


(対装甲車用のビームガンなんて吊して、それでか弱い女の子相手にするつもり………だいたい重い銃だしホルスターの位置は腰のあたり、あまり上手くないようね、それに酔っている。兄貴分が手ごわそうに見えるけど………こいつの眼………)

 エリカは勝算を見極めると、食事をしながら


「おっちゃん。べっぴんさんは、ここにもいるんだけど」

 男たちはエリカを見ると

「えー! あんた、女だったんか」

 エリカは冷静を装っていたが、その目はひきつっていた。


 それに気づいたカイトは

「エリねぇ、ほどほどにな」


 カイトは注意したものの義務的な発言で、大男に絡まれているにも関わらず、平然と食事を続けている。エリカは口元にソースをつけたまま、ゆっくり立ち上がると


「わたし昨夜、宇宙そらから落っこちて、むしゃくしゃしてんだ。なんなら私が相手してやろうか」

 すろと絡んできたひとりが


「カウボーイの格好してるから分からんかったが、よく見るとこの嬢ちゃんも可愛いではないか、胸も大きいしな」

 言われたエリカは相手を睨むと、不敵な笑みを浮かべ


「おお、よく言ったね、それじゃあ表に出な。あたしに勝ったら、そうねぇー………」エリカは少し考えたあと、ルナの肩に手を置いて


「この娘を好きにしな」


「ええー! 」

 ルナが思わず叫んだ。男たちはルナを舐めるように見て、エリカとさっさと出て行った。ルナはおびえながら


「カ……カイトさん、あんなこと言ってるよ、エリカさんは大丈夫」

「まあ、大丈夫だろうよ。エリねぇはちゃんと相手の力量を確認している、それにあいつら、よそ者みたいだしな」


「よそ者って………」

「この星の奴なら、エリねぇに喧嘩を売ろうなんて、命知らずはいないよ」


 確かに少女が男三人に絡まれているにも関わらず周囲の連中は助けようともせず、おもしろそうに、成り行きを傍観している。


 なじみの店長でさえカウンターの客と、笑みをこぼしながらエリカのいざこざを酒の肴にしている。


 エリカは、男三人と外に出て行った。ルナは、おろおろしながら

「カイトさん。みんな出ていくよ」

「めんどくせーな。まあ、いくか」


 ものぐさに言うと立ちあがり、エリカの向かった広場にでた。すでに、エリカと距離をおいて向かい合う形で、先ほどの男三人が立っている。



 *****



 カイトとルナは広場の端で遠巻きに見ている。他にも、野次馬が数人ヘラヘラと笑いながら見物していた。


「いいのか嬢ちゃん、一人で」

「かまわん。貴様らの腰の物、おもちゃじゃないんだろ。抜け! 」

 エリカが言うと、最初二人がホルスターの銃に手をかけた。


 その刹那、銃声がひびく。

 次の瞬間、エリカが連射した射線の先に男二人が崩れ落ちた。


 エリカは、相手が銃に手をかけた瞬間に抜き撃ちし、男たちは自らの銃を掴むことすらできなかった。


 兄貴分の男は、エリカの早撃ちに驚いているようで、すでに銃を手にしてエリカに向けている。しかしエリカは、あえて銃をホルスターにしまった。

 それを見たルナは


「エリカさん、どうして銃をしまったの、相手が撃たないと思ってるの」

 カイトの背にかくれるようにしているルナが小声で言うと


「相手を油断させるつもりか、余裕かな。でも、さすがエリねぇだ、相手との距離を十分にとっている、相手の弾はあたらないよ」


「ど……どうしてそんなことが言えるの。離れているけど狙ってるし、早くやめさせないと」

「まあ、見てな」

 エリカは相手を見据えて、余裕の笑顔を見せている。


「おい! 俺が撃たないとでも思っているのか。そうはいかないぜ」

 男は容赦なくトリガーをひいた、その瞬間エリカはわずかに横に動く。

 と同時にエリカが抜いた銃の射撃音が響いた。


 一瞬の静寂と張りつめた空気、周りの野次馬も沈黙する


 次の瞬間、男は膝から崩れ落ち、放たれたビーム弾は、エリカの後ろの樹木の枝を落とした。


 ルナは口に手をあて、立ちすくんでいる。

「どうして………相手の方が早かったのに」


「ルナさん『利き目』って知ってるか。人の手や足には右利き左利きあるように、目にも利き目があるんだ、これは銃を撃つのにとても重要なことなんだ。利き目が左の場合、右手で銃を撃つと照準が狂う、動くものはさらに当たらない。エリねぇは相手の表情やしぐさでそれを見抜いて、相手との距離をおき、わずかに動いてそらした。エリねぇは、そういった喧嘩ごとに関する勘は、なぜか鋭いんだ」

 ルナはよくわからない様子で、震えながら


「そ……そうなの」

 エリカがルナのそばにくると、震えるルナを見て


「大丈夫よ、電磁ショック弾で気絶してるだけ。それに、いまどき火薬で発射するリボルバーなんて、古代遺跡クラスの骨董ものだけどね」

 実弾でないことにルナは安心すると、後ろにいるカイトが、


「ルナさん気にすることないよ。エリねぇの特技は銃の早撃ちと、どこでも寝られることくらいだからな、あと最大の弱点が、ちょうどそこにいる」

 エリカとルナが、カイトの指差した先を見るとエリカの足元に


「ふんぎゃー! ゴキムシ! 」

 エリカが、泣き叫ぶようにルナの後ろに隠れるが、一方のルナは笑いながら平然としている。

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