3-1.真夜中の決闘(前編)

 

 町のなじみの露店にくりだすと。エリカはスペアリブにかぶり付いていた、すでに五本目……


「エリねぇ、ほどほどにしときなよ」

「うるさい! この先、貧困暮らしが待ってるんだ、食えるとき食っとかないと」

 エリカは無心に食べている。


 その店の中央では、澄んだ声で歌を唄っている娘が客の注目を浴びていた。

 店長がスペアリブの追加を持ってくると、エリカは上目遣いに。


「この店、歌手を雇ったの」

「あの娘か。あれは昨夜、突然やってきて、歌わせてくれって言ってきたんだ。まあ、ためしにと思ってな。でも結構いけるだろ」


 歌い手は、腰から下は細身の体の線が透けて見える薄衣のフレアーパンツにヒップスカーフをつけ、ベリーダンスのような鮮やかな衣装。

 長い栗色の髪に整った顔立ちの美しい娘だった。


 しばらくしてショーは終ったが、エリカたちが食べ続けていると


「あのー、すみません」


 ふりむくと、先ほど歌を唄っていた娘が、愛らしく微笑んで話しかけてきた。


「私はルナと申します。ご覧のとおり旅をしながら歌やベリーダンスをしています」

「さっき歌っていた人ね。上手だったよ、それにスタイルもいいし」


「ありがとうございます。あのー……座っていいですか」

 エリカがうなずくと、ルナと言った娘はエリカの横に座り、親しげに話しかけてくる。


「よければお名前を、教えていただけます」

「私はエリカ、それと弟のカイトよ」

「………そうなのですか? 」


 ルナは一瞬口ごもったあと、エリカとカイトを見比べている。それに気づいたエリカは

 似てない、って言うのでしょ、瞳や髪の色も違うしね。カイトはお父さん似で、私はお母さん似、みたいなの」


 すると、ルナは少し言いにくそうに

「みたいなの、って、あのー……ご両親は」

「お父さんは一年前に行方不明になって、お母さんはカイトが産まれて直ぐ死んじゃったの」


「そうなの……それは……」

 悪い事を聞いたようで、申し訳なさそうにしたが、エリカは気にせず。


「いいのよ、気にしないで。それにカイトとは一時離れ離れになったことがあるけど、まあ、今はへたれ弟の保護者みたいなものだけどね」


「どっちが保護者だよ……」カイトは聞こえるようにつぶやいた。


「ところでルナさん…でしたっけ、私に何か用」

「実は私、一人旅で、見れば私と近いお歳のようですし、少しご一緒させていただけないかと思いまして」

 確かに、店にはがらの悪い男ばかりで、若い娘はエリカだけだ。


「ねえ、ルナさん。こんなところ、若い娘がくるところじゃないよ。しかも美人だし。おっちゃんの眼が………」

 回りでは横目で、ルナを見ながらぼそぼそ話している。


「あら、エリカさんだって、スタイルいいですし、その緋色の髪も、すてきです」

 エリカはなぜか、髪を褒められると機嫌がよくなる。するとカイトが


「お世辞はほどほどに。ぱっと見は女か男かわかんないだろ」

「こら! カイト。だいたい、あんたは女性を見る目がないのよ。しかも、この豊満な胸元の谷間が目に入らぬか」

 そう言って、胸を両手で寄せつけて見せつける。


 カイトはエリカの抗議は聞き流し、ふとエリカとルナを見ると髪の色は違うが、同じ琥珀の瞳に、なんとなく顔の輪郭も似ている気がした。


「どうしたのカイト、ルナさんに見とれてるの」

 エリカがにやけた目でカイトを見ると


「あ!……いや……」

 カイトは赤くなって、それ以上は言わなかった。ルナも微笑んでいる。エリカは話をもどして


「でもルナさん……知ってると思うけど、ここは銀河辺境のだれも見向きもしない貧乏惑星だから、ラスタリア皇国、星系連合、それ以外にもいろいろな人が入ってくる。サーフェイスの住人は細々と農耕しているけど、街には、やばいやつが流れてきて、賞金稼ぎとのドンパチも、たまにあるんだよ」言いながらルナに顔をよせると、横目で奥の席に注意しつつ小声で


「………この店安いから私はよく来るけど、結構すけべ親父が多いんだ。ほら、さっそくあなたのファンになった人が来たよ」


 奥の席から酒に酔って顔を赤くした、大柄のむさくるしい男三人が近づいてきた。

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