4.オリフィスの精霊

 

 *****


 ワープ・アウトし、漆黒の宇宙空間に飛び出た脱出艇……


 ナディアは息をしない子を抱きしめ

「ごめんなさい、ごめんなさい! 」泣きながら、何度も叫んだ。

 いつまでも離そうとしないナディア。

 しかし、他の子もぐったりし重体の子もいる。


(立ち止まってはいけない)


 気持ちを奮い立たせ、重体の子を懸命に手当し、消沈している子を元気づけた。

 落ち着くと、亡くなった子を棺となるボックスに入れようとしたとき、隅に他の箱があるのに気づいた。


 中には幼子が眠って、生命維持装置がアクティブになっている。附随している識別データを見ると

「名前はエリカ……だれの子供」

 それ以上のことはわからなかった。


 さらに、船のコントロールが利かなくなり、設定されていたラスタリアへの航路がキャンセルされ、見知らぬ地点に向かっている。

 それは、聞いたことのない辺境の地で迎えの船が来ることが記されていた。ナディアはコントロールを回復しようとしたが、厳重にロックされ、制御できない。


「いったい、どこへ行くの……」

 もはや成り行きにまかせるしかないが、ラスタリアへ向かわないとなると、少なくともラスタリア側の仕業では無いだろう。

 不安もあるが、ラスタリアに向かって捕まることを考えればナディアにとっては好都合かもしれない。


 そんなナディアはオリフィスの戦闘に違和感も覚えていた。

 星系連合は民主的な国家の集まりで、ラスタリアの独裁者だけを倒せばよいはずが、恨みだけで、関係ない女性、子供まで皆殺しにするだろうか。


 少しでも手掛かりをと、船内に残された戦闘記録や極秘通信を解読し、ナディアはこの戦いの真実を知った。


 *****


 そこには、后妃エストナが、一人で敗北の決定的なオリフィスを援護に来て、スカーレット・エクシード単機で敵の旗艦に斬り込んだこと。


 その後、オリフィスは陥落したが、その時を見計らったように停戦を申し出たラスタリア皇国に対し。赤き翼に破壊された艦橋での宴席に、何故かいなかった星系連合の休戦派の強い意見で、うやむやのうちに停戦を受け入れ、辛くもラスタリアの独裁体制が存続したこと。


 さらに、最も衝撃を受けたのは、自分や友達を実験動物のように扱い、星系連合の襲撃を機会に、生体実験の証拠を隠滅するために自分達を消し去ろうとしたラスタリア皇国。

 先にロケットに乗っていた少年少女は、優秀な適合者で、その幾人かだけを脱出させ、自分達のような失敗作を人目につかないうちに消そうとしたのだ。背後には、間違いなく星系連合に通じている者がいる。


「ちっきしょうー!! 」


 ナデイアは胸が締め付けられる思いで呟くと、知らずに涙があふれる。

 さらに、その通信者が使用したナディア達、施設の少年少女を指す暗号名が


【ブロイラー】


 それはあまりに屈辱的で、これまでのつらい日々や、一度も幸福を味わうことなく幼くして死んだ悲運な友達が思いだされ、少女ながらも心臓が破裂しそうな怒りがこみ上げ、血がにじむほど拳を握りしめた。


「私たちはブロイラー……ラスタリアの奴らめ! 必ず、思い知らせてやる! 」


 二週間後、宇宙を彷徨ったナディア達の脱出艇を迎えにきたのは、ラスタリアでも星系連合でもない、地方の個人貨物船だった。

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