第47話 陽太のメッセージと真実を教えてほしい僕
瑞奈の背中を見送った後、僕はスマホを取り出し、MINEを開いた。
相手は陽太だ。
― 未亜から好きな人は誰って聞いた? ―
既読はすぐについた。
おそらく、瑞奈より先に待ち合わせ場所にいて、暇潰しにスマホをいじっていたのだろう。
― 急だね ―
― 何かあった? ―
陽太の反応は最もだ。そもそも、未亜に振られたばかりの相手に聞くことではない。
僕は今さらながら察すると、「ごめん」とコメントを打つ。
― まあまあ、そう気を遣わなくてもね ―
― で、富永さんの好きな人だっけ? ―
陽太のメッセージからは、特に動揺をしているような雰囲気が感じられない。まあ、SNSのやり取りだけでは無理もないだろう。
― そうだね ―
― 知りたい? ―
― 普通に知りたい ―
僕の要求に対して、陽太の新しいメッセージはなかなかやってこない。
仕方なく、目の前にあるオレンジジュースをストローで飲む。
― そうだね ―
― 奈良橋って言っていたね ―
僕は陽太の返事を目にするなり、「えっ?」と間の抜けた声をこぼしてしまった。
奈良橋はバスケ部に入っているクラスメイトの男子だ。教室ではイケメンの部類に入る方で、未亜と話してるところも度々見かけたりはしていたが。とはいえ、他の男子と比べて、取り分け多いというわけでもない。
「これって、いったい……」
「さあ、どうなんだろうねー」
唐突に聞こえてきた声に振り向けば。
ハンチング帽を被り、メガネをかけた未亜の姿があった。
「いやー、柏木くん、すっかりあたしが直也のことを好きみたいに思ってるねー」
未亜は言うなり、先ほどまで瑞奈が座っていた椅子に回り込んで、腰を降ろした。
そして、ハンチング帽とメガネを外し、髪を下ろす。体育館裏でポニーテールに戻す前と同じだった。
ちなみに直也とは奈良橋の下の名前だ。
「でも、さっきはバレるかと思ったよー。瑞奈ちゃん、急に周りを見始めるだもんねー」
「もしかしてと思ったけど、近くで見ていたってこと?」
「まあねー。あそこの席で。あっ、すみません、あたし、ここと席、同じにしたいんで。はい、お願いします」
未亜は近くを横切った女性店員へ近くにある席の方を指差しつつ、やり取りを交わす。視線をやれば、コップの水しかない。
「注文は?」
僕は女性店員がいなくなってから、未亜に尋ねる。
「したよー。さっきまでカフェオレを飲んでたかなー。まあ、飲み終わって、店員が片付けてくれたからねー」
「それって、僕たちのことを待ってたってわけ?」
「そうだよー。まあ、先々週の日曜も今の時間くらいに話してたよねー」
どうやら、未亜は僕が瑞奈とここで会うことを見計らっていたようだ。というより、先々週も近くで僕と瑞奈のやり取りを目にしていた感じっぽいし。
僕はスマホをしまうと、テーブルを挟んで、未亜と向かい合う。
「あれ? 柏木くんに返事はしなくていいの?」
「いや、それよりまずは真実を教えてほしくて」
「真実?」
「そう」
僕は間を置くなり、口を再び開く。
「結局、未亜は誰が好きなのかなって」
「それは和希に言ったよね? 瑞奈ちゃんだって」
「でも、今、MINEで陽太に聞いたら、奈良橋だって」
「まあ、それはあたしが柏木くんに断った後にそう教えたからねー」
「じゃあ、皐月さんには?」
「皐月には瑞奈ちゃんって伝えてるよー」
「ってことはやっぱり、奈良橋じゃなくて、瑞奈?」
僕の問いかけに対して。
未亜は瑞奈が飲み干した空となっているコーヒーカップの縁を指でなぞった。
「恥ずかしいんだよねー」
「恥ずかしい?」
「そう。本当のことを言うのがねー」
未亜は声をこぼすと、笑みを浮かべた。
「でも、まあ、そろそろウソをつくのはやめた方がいいかなって」
「ウソって、もしかして」
「うん。あたしが好きなのは、瑞奈ちゃんでも直也でもない」
未亜は言葉を区切ると、おもむろに僕と目を合わせてきた。
「和希だから」
ぽつりと漏らした未亜の声は、僕にとって、聞き間違いかと疑いたくなるほどだった。
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