18日目(日曜日)

第46話 拍子抜けする瑞奈と無性に気になってくる僕

 翌日の日曜日。


 僕は駅前のカフェにて、テーブル席でワンピース姿の瑞奈と向かい合って座っていた。


「にしても、富永が先輩に協力を求めてくるなんて、予想外でしたね」


 瑞奈は言うなり、コーヒーカップに口をつけた。


 対して僕は、「ま、まあね」と相槌を打つ。


「でもです」


「何?」


「その富永が好きな相手というのが、お兄さんでも先輩でもないクラスメイトの男子というのはちょっと拍子抜けですね」


 瑞奈はふうとため息をつくと、コーヒーカップをソーサーに戻す。


 今話したことは、僕が昨日の放課後、未亜と会った後にMINEで送った内容だ。


 つまり、僕はウソをついたことになる。


 だって、未亜は瑞奈のことが好きと伝えても、当の本人は絶対に信じてくれなさそうだ。ましてや、「ふざけないでください」と説教をされる可能性が高い。僕としてはそんな面倒なことが起こるのはどうしても避けたかったからだ。


「まあ、現実はだいたいそんなもんかなって」


「そうですか」


 瑞奈は声をこぼすなり、スマホを取り出す。今日は陽太とショッピングに出かけるそうだ。


「とりあえずは先輩」


「何?」


「できれば、富永よりもわたしのことを優先してもらいたいものです」


「と言うと?」


「富永の恋など、どうでもいいということです」


「それはちょっと」


「じゃなければ、わたしは富永を殺します」


 物騒な単語を並べ、僕を脅そうとする瑞奈。


 とはいえ、僕としては変に慣れてしまっていて、「それは困るんだけど」と愚痴を漏らす。


「そういえばですけど」


「何?」


「お兄さんは富永が好きな人を知っているのですか? そのクラスメイトっていう男子ですが」


 瑞奈の問いかけに、僕はぎくりとしてしまう。


 振り返れば、昨日、陽太は教室で未亜から振られたことを教えてくれた時。


「富永さんから誰が好きなのかは一応聞いてて」


 とか口にしていたような。あの時はてっきり、僕は未亜から告られると思い込んでいたので、話を流してしまった。けど、今となっては、未亜から瑞奈が好きであることを聞いているのか否か。


 と考えていると、無性に気になってきた。


「ご馳走様です」


 見れば、瑞奈はコーヒーカップを空にしていた。


「ということで先輩。今日も奢りということでお願いします」


「拒否権はなさそうで」


「当たり前です」


 はっきりと答える瑞奈に、僕は「わかったよ」と返事をするしかない。


 瑞奈は立ち上がると、辺りへ視線を動かす。


「どうしたの?」


「いえ、何だか、誰かに見られてるような気がしましたので」


 瑞奈は言うも、陽太と待ち合わせの時間が迫ってきたのか、スマホを改めて見てからしまう。


「とりあえずは、お兄さんの監視とかを疎かにしないようにしてほしいものです」


「それは気を付けるよ」


「気を付けるレベルではないです。義務です」


 瑞奈は僕の方を指差して、強い語気で言い放つ。


 対して僕は「はい」とうなずく。年上なのにという点は既に考えないようにしていた。


「では、わたしはこれで」


「デート、上手くいくといいね」


「そうですね。でも、お兄さんは単に妹と買い物に行くだけと思っているだけだと思いますけど」


 瑞奈は残念そうな調子で言葉を残し、カフェ店内から立ち去っていった。

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