第43話 電話越しで説教をする瑞奈と頭を下げる僕

「そうですか。お兄さんは振られましたか」


 スマホ越しから聞こえる瑞奈の声は淡々としていた。


 放課後の体育館裏。


 僕は一人、いずれ現れてくるであろう、未亜を待っていた。


「それで、お兄さんはどうでしたか」


「どうでしたかって言われても、まあ、いつもと変わらない感じだったけど。今日も部活の練習に行ってるし」


「なるほど。お兄さんは振られたことを忘れようと、部活に集中するということですね」


「いや、多分、そういうわけじゃないと思うけど」


「だったら、振られたというのに、平然といつも通り部活に行くとは思えません」


「まあ、それが陽太らしいかなって、僕は思うんだけど」


 僕が口にすると、間を置いてから、ため息の音が漏れ聞こえてくる。


「先輩。お兄さんはいつ何時も冷静沈着な完璧人間ではないんですよ」


「いや、僕はそういう風に思ってるわけじゃなくて」


「だから、周りから鈍感だと思われるんです」


「いや、そんなこと言われたことないんだけど……」


「言われてなくても、周りの人たちは内心、そう思ってると思います。かく言うわたしがそうですから」


 はっきりと言い切る瑞奈。まあ、信じるかどうかは別として、僕はそう見られていたようだ。今まで。


「とりあえず、わたしはお兄さんが家に帰ってきたら、色々と気遣うつもりです」


「いや、そういう風にすると、かえってまずいんじゃ……」


「だからといって、いつも通りに振る舞うというのは、わたしにとって、やりづらいものです」


「じゃあ、未亜に振られたことは知らないふりをすれば」


「わたしにそこまで演じきれる自信はありません」


 瑞奈は強い語気で伝えてくると、「とにかくです」と言葉を続ける。


「これからあの富永と会うんですよね?」


「まあ、うん」


「その、富永がお兄さんよりも好きになるような人は誰か。ちゃんと聞き出してください」


「いや、聞き出すも何も」


 僕は言いかけようとして、寸前で口を噤む。


「何ですか」


「いや、とりあえず、聞き出してみるよ」


「必ずです。ああ、ちなみにですけど」


「何?」


「富永の好きな人が先輩っていうのは思っていないですから。わたしは」


 瑞奈の声に、僕は苦笑いを浮かべる。


 いや、僕としてはそのつもりで、未亜と会おうとしていたのだけれど。完全に否定をされたら、どうしようかと困ってしまう。


 僕が黙り込んでいると、瑞奈が話しかけてくる。


「もしかして、先輩。富永から告られると思っていました?」


「いや、それはその……」


「そう思っていたのでしたら、それは自惚れに他ありません。反省してください」


「まあ、その、反省します」


 僕は瑞奈が目の前にいるわけでもないのに、スマホを耳に当てつつ、頭を下げる。街中で同じようなことをしている会社員とかはこういう感じなのだろう。と考えていると、働くのは嫌だなと感じてしまう。


「では、結果の報告、待ってますので」


 瑞奈は一方的に話を終えると、スマホの電話を切ってしまった。


 僕は特に文句をぶつけず、スマホをしまう。


「自惚れか……」


 となれば、僕は誰からも好かれてないということか。やはり、ラブコメの主人公みたいにはいかないようだ。まあ、わかりきっていたことだけれど。ただ、実際に直面をするとなると、何とも虚しい気持ちになる。カフェでホットコーヒーを飲みたい気分。いや、小遣いがそろそろ厳しいので、百円の缶コーヒーか、家のもので我慢をするかだ。


 と、僕がたそがれていると。


「ごめんー、待たせちゃってー」


 奥から、駆け足でやってくる未亜の姿が視界に映った。

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