17日目(土曜日)
第41話 結果を報告する陽太と頭を悩ます僕
そして、翌日。
中間テストの答案が教科によっては返ってくるようになってくる土曜日。いつもなら午前で終わりなのだが、昼休みを挟んで五時限まで授業があるという憂鬱さ。何でも、一学期にあった台風の休校による授業数確保が理由らしい。
で、僕は前の授業である数学で渡された中間テストの答案を見つつ、肩を落としていた。
「ドンマイ」
見れば、陽太がわざわざ窓際奥にある僕の席までやってきて、軽く肩を叩いてくる。
「そう言う陽太は?」
「まあまあ」
「まあまあね」
「まあ、高村さんが満点というのは当然というべきか、本当に全教科このまま満点を取るのか、そこらへんに興味があるっていったところだね」
「なるほど」
僕は言いつつ、平均点を下回る自分の答案を机の下にねじ込む。
「まあ、声をかけたのはテストの答案というよりは」
「未亜のこと?」
僕の言葉に、陽太は間を置いてから、「まあね」とうなずく。
「そういえば、朝に返事を聞くことになってたような」
「まあね」
「未亜からは特にMINEで連絡とかはないけども」
「まあ、それは自分が直接和希に教えてっていう指令かもしれないね」
「指令?」
「まあ、とりあえず、結果を話すとして」
陽太は口にするなり、僕の後ろに回り込み、空いてるガラス窓の枠に腰掛ける。
「振られたよ。ものの見事にね」
陽太はあっけらかんとした調子で口にすると、とある方へ視線を移す。
僕が遅れて同じ方へ顔を動かせば、クラスの女子らと談笑をしている未亜の姿があった。
「『他に好きな人がいるから』っていう理由でね」
「へえー」
「すごい棒読みな反応だね、和希」
「そう?」
「とりあえずだけども、和希は知ってた?」
「何を?」
「富永さんが自分のことを好きじゃないってこと」
陽太の質問に対して。
僕は「まあ、昨日ね」と短く口にした。
「昨日となると、自分が富永さんに告った後くらい?」
「そうだね」
「なら、仕方ない」
「仕方ないって何が?」
「いや、それよりも前に知っていたのなら、そういうことを教えてもらえれば、自分は富永さんに告るようなことはしなかったなって思って」
「それは、まあ、確かに」
僕は言いつつ、机で頬杖を突き、相変わらず、未亜をぼんやりと眺める。
と、彼女が気づいたのか、笑みを浮かべ、軽く手を振ってきた。
「仲いいんだね、和希は」
「そう?」
僕は軽く手を振り返しつつ、ため息をつく。
「いや、僕は単に傍観者みたいものだから」
「でも、高村さんに告ったから、傍観者というわけでもないと思うけどね」
「そう?」
「だね。じゃなきゃ、高村さんに対する好意はひた隠しにして、自分に振られたことを遠巻きに見てるだけだったかもしれないかなって、和希は」
「それって、単に冷たい人間にしか見えないけど?」
「だから、まあ、和希はまだ人間だなって思えるってことかな」
「ちょ、その言い方だと、僕は今まで人間じゃなかったかもしれないって疑念を抱いていたってことになるんじゃ?」
「まあ、そう受け取られても致し方ないかなって」
陽太は口にすると、両手を上げて、降参といったポーズを取る。いや、意味がわからない。というより、陽太は僕のことをそういう幼なじみとして捉えていたということか。
「まあ、だから、これでお互いに失恋した者同士、前向きに生きていこうと言い合えるかなって」
「何か傷の舐め合いみたいな関係であまりそれは……」
「冗談、冗談。というより、和希には高村さんもいるしね」
「いや、皐月さんとは別にそういった関係じゃ……」
僕は否定をしたくなるも、内心はMINEやSwitterのアカウント交換をしたい本音がある。特にSiwtterは鍵垢の中で何をつぶやいているのか、妙に気になってはいた。
「後だけど」
「何?」
「富永さんから誰が好きなのかは一応聞いてて」
陽太の言葉に、僕は机へうつ伏せになる。
「その反応は聞きたくないって感じだね」
「まあ、何となく予想がつくからね……」
僕はため息をつきつつ、おもむろにスマホを取り出し、MINEを開く。
― 放課後、体育館裏で ―
短いメッセージの相手は未亜だ。加えて、陽太が話そうとしている内容を踏まえれば、自ずと答えは出る。
「さて、どう答えようかな……」
僕は小声でつぶやきつつ、頭を悩ませざるを得なかった。
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