第39話 気持ちを新たにする未亜と瑞奈のところへ向かう僕

 陽太が未亜に告ってから一時間後。


 近所の公園にいた僕は、スマホから瑞奈のMINEを開いた。


― ちょっと遅れてから行く ―


― 怪しいですね ―


― もしかして、何かあったのですか ―


― まあ、それは色々と ―


― 教えてください ―


― それはまあ ―


― 後で会う時に話すってことで ―


― 勿体ぶりますね ―


― なら、仕方ありません ―


― わたしはコーヒーをお代わりしつつ、待っています ―


― もちろん、先輩の奢りです ―


 瑞奈のメッセージを見つつ、僕はため息をつく。


 どうやら、待たせる代償は僕の小遣いから減らされそうだ。


 と、公園の奥から現れた人影に僕は手を振る。


 すると、相手も気づいたのか、駆け足で近寄ってきた。


「ごめんごめんー」


 現れた未亜は正面を合わせるなり、軽く頭を下げる。


「いや、その、こっちこそ、急に呼び出すようなことになって」


「いいよいいよー。まあ、うん。柏木くんからあんなこと言われるなんて、まあ、驚きだよねー」


 未亜は頭を触りつつ、苦笑いを浮かべる。


 とりあえず、僕は近くにあるベンチへ未亜とともに座ることにした。


「それで、その、未亜は返事、どうするの?」


「そうだよねー。そこだよねー」


 未亜は言いつつ、困ったような表情を浮かべる。


「和希ならどうする?」


「どうするって、いや、僕はそもそも、未亜が陽太のことを好きかどうかわからないし……」


「あー、そうだったねー。ごめんごめんー」


 未亜は申し訳なさそうに答えると、顔を陰りが走る。


「まあ、正直に言えばね」


「うん」


「あたしが好きな人は柏木くんじゃないんだよね」


「それはつまり」


「だから、この返事は断ろうかなって」


「そっか……」


 僕はうなずきつつ、空の方へ視線を移し、どう話を続けようか考える。


 となれば、未亜が好きな人は誰なのだろうか。


「和希が今考えてるのって、あたしが誰を好きなんだろうってことだよね?」


「まあ、それは、うん。気にはするけど……」


「まあねー。前にも言ったけど、タイミングとかあるからねーって思っていたけど、今はそれどころじゃなさそうだねー」


「と言うと?」


「もう、その好きな人に告ってもいいかなってー」


「思い切ったことを言うね」


「まあ、柏木くんに告られたのだから、あたしもちゃんとしないとなーって思って」


 未亜は言うなり、勢いよく立ち上がった。


「それに、和希も皐月に告ったしねー」


「まあ、結局は振られたけど」


「振られても、ちゃんと相手に自分の気持ちを伝えたことはいいことだと思うよー。何もしないよりはねー」


 口にした未亜は僕から背を向ける。


「だから、あたしなんて、和希と比べれば、何もできてない臆病者みたいなものかなって思うんだよねー」


「いや、そんなに卑屈にならなくても……」


「ありがとう、和希」


 未亜は振り返ってくるなり、綻んだ表情を向けてくる。


「まあ、だから、明日には柏木くんに返事をちゃんと言おうかなって思ってる」


「それは結構な決意だよね」


「だよねー。だって、断るっていうのは、柏木くんを悲しませるようなことを言うことだもんねー」


「まあ、けど、無理に付き合っても、お互いいいことにはならないような気がするし」


「だよねー。やっぱり、お互い両想いの方が一番いいよねー」


 未亜の言葉に、僕は自然と首を縦に振る。


「ちなみに、和希は柏木くんに隠れて見ていたところ、バレたんだってねー」


「まあ、そこは何とか」


「それは悪かったねー。あたしが見ててみたいな話もしたからねー」


「いや、そこは別に、僕の方こそ、興味本位で見てみたいっていうものもあったから」


 僕が口にすると、「何だか気を遣わせちゃったみたいだねー」と反応をする未亜。


「じゃあ、あたしはこれで」


「うん。その、心配したけど、何だか大丈夫そうで」


「へえー。和希って、優しいところもあるんだねー」


「そう?」


「そうだよー」


 未亜の言葉に、僕は照れてしまい、頬を指で掻いてしまう。


 そうこうしている内に、未亜は「じゃあねー」と言い残して、立ち去ってしまった。


 僕は立ち上がり、遠ざかっていく未亜の背中に手を振りつつ、「さてと」と声をこぼす。


「瑞奈のところに行かないと」


 僕はスマホを開き、瑞奈にMINEでメッセージを送る。


― 今から行くんで ―


― 意外に早いですね ―


― とりあえず、待ってます ―


 瑞奈のやり取りを終え、僕は駅前にあるいつものカフェへ向かい始めた。

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