第36話 未亜の提案とコロッケパンを齧る僕

「じゃあ、あそこで」


 とりあえず僕が未亜を連れていったのは、学食前にあるベンチだ。他にもあり、生徒らが座って、弁当なり、僕と同じパンを食していたりしている。


 というわけで僕は、空いていたベンチに未亜と並んで座った。


「前にもここで座って話したねー」


「そうだね」


 僕は相槌を打つと、さっき買ったコロッケパンを開けて食べ始める。


「あれ? 教室で柏木くんと食べるんじゃないの?」


「まあ、一個くらいは食べていいかなって」


 僕は言いつつ、パンとコロッケの感触を味わう。


「で」


 僕はひとしきりコロッケパンを堪能した後、未亜に話を促す。


「僕が何で困ってるって気づいた?」


「いや、まあ、それは……」


 未亜は頬を指で掻きつつ、変に照れ笑いを浮かべる。


「何て言うかなー、ほら、和希って柏木くんと一緒にいることがあったりするけど」


「まあ、そうだね」


「でも、見てると、何か聞きたそうだけど、なかなか聞けなさそうな雰囲気が伝わってきて、それで何だろうな―って」


「やっぱり、僕のことを監視してたってこと?」


「いや、監視だなんて、そんな大げさなことはしてないよー。まあ、皐月と陽太のこともあったから、何ていうか、そういうので気になったりはするんだよねー」


 未亜の言葉に、僕はようやく腑に落ちる。つまりはどうも、僕のことを気にかけているのかもしれない。幼なじみの陽太に振られた皐月さんに振られたという状況に。まあ、何も思わないとしたらウソになるけど。


「まあ、僕は特に大丈夫だけど」


「そう? でも、陽太に何か聞きたそうな感じだよね?」


「まあ、それは事実だけど」


「へえー」


 未亜は口にすると、訝しげな視線を移してくる。


「それはあたしには言えないようなことかなーって」


「いや、別にそういうものでもないと思うけど」


「じゃあ、何かなー」


 未亜の言葉に、僕はため息をつくと、おもむろに口を開く。


「その、陽太は誰が好きなんだろうなって」


「柏木くんの好きな人ねー」


 未亜は言うなり、口元あたりに手を当てて、考え込むようなポーズを取る。


「そういえば、柏木くんのそういう噂、誰かとか、聞いたことないねー」


「そもそも、僕が知らないしね」


「でも、逆に和希が皐月のことを好きなのは、柏木くんは知っていたんだよね?」


「それはまあ、うん」


 ぼくはうなずくと、気を紛らわすためにコロッケパンを齧る。


「まあ、だから、僕も知っておいた方がいいんじゃないかなって」


「何のために?」


「それはまあ、知ったら、そういうので協力するとか、そういうことをしようかなって」


「ふーん」


 未亜はうなずくと、視線を学食の方へ向ける。生徒の出入りがひっきりなしにあり、昼休みの賑やかさはいつものことだ。


「何なら、あたしが聞いてあげよっか?」


「えっ?」


 僕は未亜の言葉がはじめ、聞き間違いかと耳を疑ってしまった。


「聞くって、未亜が陽太に好きな人は誰かをってこと?」


「そうそう」


「でも、未亜には関係ないことじゃ?」


「関係あるよー」


 未亜は言うなり、ベンチから立ち上がり、僕に正面を合わせてきた。


「柏木くんは皐月が好きな人だったからねー。その、柏木くんが本当は誰を好きだったのかは皐月の親友であるあたしとしては気になるところだよねー」


「もしかしてだけど」


「何?」


「皐月さんもそういったところが気になってるとか?」


「そうだねー」


 躊躇せずにうなずく未亜。


 自分が好きな人は誰を好きなのか。瑞奈と皐月さんは考えることが同じなようだ。


「というわけで、あたしに任せてもらってもいいかな?」


「まあ、僕が色々と躊躇したりして上手くいかないのなら」


 と言いかけたところで、僕はあることに気づく。


「でも、瑞奈は嫌だろうな……」


「瑞奈って、もしかして、柏木くんの妹さん?」


「まあ、うん」


「へえー。もしかして、妹さんもお兄さんが誰を好きなのか、気になるんだー」


「まあ、それは興味本位とかかなって」


「まあ、実際はわからないけどねー」


 未亜は言いつつ、両腕を組む。


「でも、まあ、ただあたしが柏木くんに聞くだけっていうのは面白くないよねー」


「どういうこと?」


「まあ、ちょっと趣向を凝らして聞いてみようかなーって」


「趣向?」


「というわけで、和希」


 未亜はなぜか、僕の肩を何回か叩いてきた。


「ちょっと協力してもらおうかなーって」


「協力って何を?」


「まあまあ。それは今から話すから」


 未亜はどこか楽しげな顔をしつつ、僕に話し始めるのだった。

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