第35話 未亜の用件と僕のお昼

 さて、昼休み。


 僕は学食にあるパン売り場にいた。


「すみません、コロッケパンと焼きそばパン、ひとつずつください」


「あいよ」


 学食のおばさんは言いつつ、「三百円ね」と告げてくるので、小銭を渡す。引き換えに頼んだパンをラップで包まれた形で渡され、僕は場を後にしようとする。


「今日は牛乳でも買うか」


「へえー。コロッケと焼きそばなんて、また濃い組み合わせだねー」


 不意に横から声をかけられ、振り向けば、一人の女子が僕のそばに歩み寄ってきていた。


 昼時の学食内が生徒らで込み合っている中、ポニーテールの彼女、未亜は変に何回もうなずく。


「あたしも同じの買おうっかなー」


「それ、前にも言っていたけど、というより、無理だと思うけど。ほら、また、売り切れそうだし」


 僕が口にすれば、彼女はパン売り場の方へ視線をやり、悲しげな表情を浮かべる。


「やっぱり、チャイムが鳴ったら、すぐ行かないとダメかー。まあ、わかってはいたけど、かといって、学食で済ませるのも何かねー」


 彼女のつぶやきに、僕は尋ねる。


「それで」


「うん? 何かな?」


「前にここで会った時もほぼ同じ会話をした気がするんだけど、何?」


「そうだっけ?」


「もしかして、皐月さんが陽太に告りたいとか?」


 僕が口にすると、「いやいや、それはないよー」と未亜は首を何回も横に振る。


「何かねー、ほら。和希、何か困ってそうだなってー」


 未亜の指摘に、僕はドキリとしてしまう。なぜなら図星だからだ。


「もしかして、僕のことを監視してたとか?」


「いやいや、そういうわけじゃないけどねー」


 不審がられたと気づいたのか、慌てたように否定をする未亜。余計怪しく感じてしまうけれども。


「とりあえず、場所、変えて話する?」


 僕が提案をすると、「そうだねー。お言葉に甘えて」と未亜は返事をしてきた。

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