第34話 登校を共にする陽太、皐月さん、未亜、そして、僕
「なるほどね」
陽太は僕の話に相槌を打つなり、目を合わせてきた。
「まあ、上手くいく可能性は低かったかもしれないけど、和希としては、自分の気持ちを高村さんに伝えたかったというわけだね」
「まあ、そうなるかな」
僕は言いつつも、段々と気持ちが重くなってくる。
どうやら、皐月さんに振られたことはまだ、内心の奥底で引きずっているようだった。
テスト前まではとりあえず、勉強だと逃げのように取り組んでいたからかもしれない。まあ、それも結果はダメそうだけど。
「そういえば、思い出したんだけど、皐月さんから伝言があって」
「伝言?」
「うん、『もう、好きになることはないから、安心して』って」
僕の声に、陽太は口元に手を当てて、考え込むようなポーズを取る。
「本当にそんなことを高村さんが?」
「そう、だね」
僕はうなずきつつ、どうも、陽太が釈然としないような顔をしていることに気づく。
「何か気になることでも?」
「いや、その、前に高村さんからの告白を断った時もだけど」
「と言うと?」
「同じようなことを言われたなって思って」
「そうなの?」
「だね」
首を縦に振る陽太。
となれば、皐月さんは結局諦めきれずに再び告ったということになる。
「だとしたら、もしかして、三回目に告ってくるとかもあり得るってこと?」
「かもしれないね」
陽太は口にすると、苦笑いを浮かべる。
「まあ、その時は自分が高村さんのことをどう想ってるのか、わからないけど。未来のことは誰にもわからないしね」
「まあ、それはそうだけど」
僕は言葉をこぼしつつ、本題に入ろうと意を決する。
「ところで、陽太は」
「何?」
「いや、その、何ていうか」
「もしかしてだけども」
陽太はおもむろに足を止めると、僕の方へ体を向けてくる。
「自分が好きな人が誰か、和希は知りたいとか?」
「いや、僕はそこまで知りたいわけでもないというか、その、でも、まあ、興味はあるというか」
「なるほどね」
陽太は納得げな表情を浮かべると、再び歩き始める。
「つまりは、和希が好きな人は高村さんで、告って振られたことも知っているのだから、せめて、そっちも好きな人がいるなら、誰かくらい教えてほしいと」
「いや、別に無理して言わなくてもいいけど」
「まあ、自分だけ隠したりしてるようなのは、不公平だよね」
陽太はふうと息を吐くと、改めて口を動かそうとした。
「おはよー、和希」
と、不意に肩を叩かれたので、目をやれば、未亜の姿があった。どうやら、僕がいることに気づき、近寄ってきたらしい。
「ああ、その、おはよう」
「えっと、柏木くんもおはよー」
「ああ、富永さん。おはよう」
何かを僕に伝えようとした陽太はそれがなかったかのように、軽く挨拶を交わす。となれば、後でMINEにて瑞奈に報告ということになる。未亜を嫌っている瑞奈なので、色々と面倒なことになりそうだけど。
そして、僕らのところにやってきたのは、未亜だけではなかった。
「和希くん、おはよう」
「さ、皐月さん……」
見れば、未亜の後ろから、皐月さんがひょっこりと現れてきていた。
同時に、周りにいた通学路の生徒らから興味深げな視線を浴びる。何せ、次期生徒会長候補と言われている皐月さんだ。加えて、学年トップは今回の中間テストでも揺るぎないだろう。同じ失恋をした者同士なのに、色々と差が歴然としている。
「和希くんは、中間テスト、どうかしら?」
「まあ、ボチボチかなって」
「ボチボチ、なのね。わたしは自己採点で全教科満点かもしれないわね」
「全教科、満点?」
「ええ」
「いやー、皐月ったら、色々と吹っ切れちゃって、もうそれはそれは、勉強漬けだったよー。ねー」
「そう言う未亜はどうなの?」
「まあ、あたしは和希と同じでボチボチかなって……。あはは」
未亜は頭を撫でつつ、笑って誤魔化しているようだった。普段から成績はあまりよくないのかもしれない。
さて、僕としては中間テストの話よりも気になることがある。
そう、振られてから、皐月さんと陽太がちゃんと会うのは初めてのはずで。未亜経由といえども。
なので、自然と皐月さんと陽太は目を合わせていた。
「柏木くん、その、おはよう」
「うん、おはよう、高村さん」
お互いにどこかぎこちなさを何とか少なくしたといった挨拶だった。
「柏木くんはいつも、和希くんと一緒に登校してるわね」
「そうだね。まあ、腐れ縁みたいなものかなって」
「中学の時と変わらないわね」
「そう言う高村さんも変わらないと思うよ。周りから注目されるほどなんだから」
陽太の誉め言葉に、皐月さんはかぶりを振る。
「わたしは周りから注目をされるほど、立派な人間じゃないわね。好きな人に振られて、それで落ち込んだり、塞ぎこんだりして、でも、どうにかこうにかやっていけている不完全な人間と思ってるわね」
「高村さんは自己評価が低すぎると思うけど」
「いえ、それは柏木くんのわたしに対する評価が高いだけだと思うから」
「そうかな……」
陽太は困ったような表情をすると、なぜか、僕の方へ目を移してくる。
「和希も高村さんと同じ気持ち?」
「いや、僕に聞かれてもって言いたいところだけど、まあ、皐月さんは皐月さんで、何でも完璧じゃないっていうところは否定できないと思うけど」
「へえー、和希って、そういう風に皐月のことを想っていたんだねー」
「いや、これはそもそも、未亜が巻き込んできたっていうか、生徒会室に呼び出したことがきっかけで」
「あたしはあくまできっかけを作っただけだよー。その後のことは、和希がしたいようにしたって感じに思えるけどねー、あたしは」
未亜は言いつつ、おもむろに皐月さんの肩を軽く叩く。
「まあ、皐月も皐月で、少しはネガティブモードを自粛した方がいいと思うよー」
「未亜。その、ネガティブモードとかいう言い方、少しはやめてほしいと話したのだけれども」
「まあまあ。そういう言い方の方が、皐月のそういう時の状態を的確に表す一番いい言葉だと思ってるから、やめるのはねー」
「未亜」
皐月は強い語気で窘めようとするも、未亜は「まあ、そう怒らないで」と受け流す。
と、陽太が真剣そうな顔を皐月さんの方へ向ける。
「高村さん」
「柏木、くん?」
「その、ここで言うのもなんだけど、改めて、その、ちゃんと改めてした方がいい?」
「した方がいいというのは、その」
「高村さんが自分のことを好きだっていうことを伝えて、それに対する返事を直接するっていうこと」
陽太の答えに対して。
皐月さんは間を置いた後、首を横に振った。
「そういうのはいいわね」
「でも」
「それに、返事は変わらないのよね?」
「まあ、それはそうだね」
「なら、しても、意味がないから、する必要はないわね。それに」
皐月さんはなぜか僕の方へ目を移すと、口元を綻ばせた。
「また、振られるというのはしたくないから」
「高村さんがそう言うなら」
陽太は言いつつ、恥ずかしくなったのか、頬のあたりを指で掻いた。
「何だか、自分から話したことなのに、変に恥ずかしくなるね」
「そうかもしれないわね」
陽太と皐月さんのやり取りが続く一方で。
僕の横にはなぜか、未亜が近寄ってきていた。
「何だか、振った、振られたの関係には見えないよねー」
「まあ、いいんじゃないかなって」
「何だか、傍観者みたいな感じに言ってるけど、色々関わってたよね?」
「それはまあ……」
僕は言葉を濁しつつ、黙り込んでしまう。
にしてもだ。
今の状態で、陽太から好きな人を聞き出すのはしづらい。
僕は頭を撫でつつ、学校内で何とか答えを聞こうと改めて決意をするのだった。
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