第29話 陰から見守ろうとする未亜と緊張がほぐれてきた僕
放課後。
テスト一週間前となり、下校時刻となった校舎は昇降口から遠ざかると静かだった。部活動も休みになり、皆、さっさと帰るか、図書室とかで勉強に勤しむのだろう。まあ、そうじゃない生徒もいたりはするだろうけど。
で、僕はというと、一人、廊下を歩いていた。卓球部の練習がない陽太は、瑞奈と一緒に帰っているはず。
ちなみに僕は、瑞奈にMINEにて、昼休みに陽太へ諸々話したことを打ち明けていた。「特になし」という報告とともに。
― 最低ですね ―
― わたしが高村先輩の立場なら、即刻校門前で待ち伏せしてメッタ刺しにするところです ―
― なので、気を付けてください ―
瑞奈からの物騒なメッセージは、思い出すだけで、僕を憂鬱とさせていた。
まあ、自業自得と罵られれば、僕は反論をする気力がないほどだけど。
さて、僕はどれくらい廊下を歩いただろうか。いや、校舎の二階、階段からある程度進んだだけで、実際は対した時間はかかっていないはず。
目的地の場所近くに、見慣れた人影が立っていた。
「元気ないねー」
未亜は手を振るなり、躊躇せずに近寄ってくる。
対して僕は、「まあね」と返事をすることが精一杯だった。緊張をしているせいかもしれない。
「いやー、MINE見てびっくりしたよー」
「それはまあ……」
「とりあえず、皐月には、和希から話があるっていうだけしか伝えてないから」
「それはその、ありがとう」
「いえいえ、どういたしましてー」
明るそうに振る舞う未亜は僕の肩を軽く何回も叩く。それが軽いスキンシップというよりは、勇気づけるような温かさを感じさせた。いや、僕の勝手な思い込みかもしれないけど。
「まあ、何かあったら、あたしがフォローするから」
「それはどうも」
「でも、場合によっては気を付けてねー」
「場合によって?」
「もしかしたら、皐月、目の前で飛び降りるかもしれないんだよねー」
「えっ?」
僕は驚くも、未亜は「そうなんだよねー」とちょっとした悩みみたいにつぶやく。
「そんなことになったら」
「大丈夫大丈夫―。それだから、あたしがここにいて何かあったら、フォローするから」
「ってことは、盗み聞きするってこと?」
「盗み聞きっていう言い方はひどいよー。あたしはただ、和希と皐月のやり取りを陰から見守ってあげるだけなんだから」
「陰から見守るね……」
僕は未亜の声に呆れつつも、同時に緊張がほぐれてきたことに気づく。
「まあ、とりあえず、皐月さんと今から話してくるってことで」
「よろしくねー」
未亜に手を振られ、僕はただこくりとうなずくだけに留める。
さて。
僕は未亜から背を向け、目の前にある引き戸に歩み寄る。
生徒会室。
そこで、皐月さんが待っているのだった。
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