第28話 答え合わせをする陽太と僕

「で」


 僕と向かい合って座ってきた陽太は、目を合わせてきた。


「和希は富永さんと付き合っているのかい?」


「えっ?」


 予想外の質問に、僕はコンビニで買ったおかかのおにぎりを落としそうになった。


 今は昼休みで、僕は教室の窓際奥にて、陽太と昼食を共にしている。


 周りにはクラスメイトらが弁当を食べたりしていた。


 僕はすかさず、視線を動かす。


「富永さんならいないよ」


「あっ、そうなの?」


「うん。チャイム鳴ってからどこかに行ったよ」


「ああ、なるほど」


 僕は納得をすると、何回もうなずく。


 ちなみに、同じクラスメイトでもある皐月さんもいない。おそらく、二人揃って生徒会室でお昼でも取っているのだろう。


「そういえば、富永さんと高村さんが揃って遅刻してきたね」


「そ、そうだね」


「和希は遅刻しなかったものの、ギリギリだったもんね」


「そ、そうだね」


「不思議だね」


 陽太はおもむろにつぶやくと、箸で弁当のご飯を口に運ぶ。


「確か、MINEだと、てっきり富永さんと一緒にどこか行ったのかと」


「それは、その、概ね合ってるというか……」


「もしかして、高村さんに会いに?」


 陽太の鋭い指摘に、僕は首を縦にも横にも振ることができない。


「図星、みたいだね」


 陽太は淡々と声をこぼすと、持ってきている水筒の蓋で麦茶を飲む。


「確か、先週だっけ? 富永さんに聞かれたんだよね? 自分に彼女がいるかどうかって」


「そう、だね」


「となれば、何となく、予想がつくね」


「陽太は」


「何?」


 僕は陽太が答えを出す前に、言葉を挟む。悪あがきみたいに。


「中学の時、告られた女子って……」


「それはもう、知ってるんじゃないかなって」


 察しが早いのか、特に驚いたような顔もせず口にする陽太。


 まるで、僕の行動はすべて見透かされていたような感覚を受けてしまう。


「ちなみにだけど」


「何?」


「断った理由って?」


「まあ、タイプじゃないからとかかな」


「それは、僕の相談を受けて考えた結果の上で?」


「そうだね」


 淡々とうなずく陽太。


 対して僕はふうとため息をついた後、椅子の背もたれに寄りかかった。


「確か、あの時は『自分の気持ちに正直に答えれば』とか話していたような……」


「そうだね」


「ということは、陽太なりに正直に答えた結果が『タイプじゃない』という理由で断ったっていうこと?」


「そうだね」


「で、その、相手の子はどういう反応だった?」


「いや、普通に『そうですか』と素直に受け入れてくれたみたいな様子だったね」


「でも、実際はそうじゃなかったとか」


「鋭いね」


 陽太は箸で弁当の卵焼きを食べると、目を合わせてくる。


「まあ、その子は翌日から一週間くらい休んでしまったからね」


「気になった?」


「それはもちろん」


 陽太はおもむろにとある方へ顔を移す。


 僕からは、空席となっている皐月さんの席を見ているように思えた。


「でも、だからといって、自分が見舞いに行ってしまうようなら、それはそれで、彼女を傷つけるかなって思って、結局は静観していることしかできなかった」


「それはまあ……」


「だけども、彼女は学校に来るようになると、僕に振られたことを忘れようとするかのように、色々と頑張っていたみたいだけどね」


「生徒会長になったとか?」


「そうだね」


 首を縦に振る陽太。既にお互い、名前は言っていないものの、答え合わせは既にできているようだった。


 やはり、陽太は皐月さんから中学の時に告られて、そして、振った。で、皐月さんは一週間休んだ末、以降は勉強とかも頑張って、生徒会長にまで上り詰めている。まあ、おそらくだけど、裏で未亜がフォローしていたのだろうけど。


「でも」


「何?」


「いや、ひとつ疑問があって」


「まあ、普通はそう思うよね」


 陽太は僕が話す前から、内容をわかっているようだった。


「自分がなぜ、和希に高村さんのことを言わなかったかということだよね?」


 もはや、陽太は彼女の名前を隠すことはしなくなった。


 僕がこくりとうなずくと、陽太は頬杖を突く。


「そうだね」


「その、まさかだけど」


 僕は一応、とある推測が頭に浮かんでいた。


「もしかして、僕が高村さんのことを好きだからとか?」


 僕の言葉に対して。


 陽太は教室の窓ガラスへ視線を移した。


「だとしたら?」


「いや、それはまあ、そこまで変に気を遣わなくてもよかったかなって」


「でも、和希はもし、その時に高村さんから告られたことを聞いて、何も感じないことはなかったと言い切れる?」


「いや、それは……」


「なら、自分としては黙っていたことに対して、特に後悔するつもりはないかな」


 陽太は声をこぼすと、僕の方へ改めて目を向ける。


「さて、自分は高村さんのことを話したわけだから、和希は話してくれるよね?」


「富永さんのこと?」


「もちろん」


 気づけば、陽太は両腕を組んで、僕と真剣そうな表情で向かい合っていた。箸は弁当の上に置き、ちゃんと耳を傾けるといった姿勢を示しつつ。


 僕は変に緊張をしてきて、喉をごくりと鳴らした後、おかかのおにぎりを食べ切る。ゆっくりとではなく、急いで。


「まあ、陽太には色々とバレバレの行動をしていたから、変に隠していても、怪しまれるだけかなって」


「和希が言いたくないなら、それはそれで、自分は受け入れるつもりだけどね」


「いや、それだと対等じゃないし」


「そうかい」


 陽太は相槌を打つと、手のひらを僕の方へ向けてくる。


「なら、せっかくだし、聞かせてもらえれば、自分としては嬉しいけどね」


「わかった」


 僕は意を決すると、口を開き始めた。


 未亜や皐月さんと今まで何をしていたかということを。

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