第26話 目が赤い皐月さんとサボりを決意する未亜と僕。

「未亜……」


「やっほー、来ちゃった」


 未亜の弾ませた声に対して、皐月さんの声は沈んでいた。


 皐月さんが住んでいるマンション八階。


 外廊下にて、僕はドアを開けてきた皐月さんと再び会うことになった。土曜に会った時と同じパーカー姿だ。


「どうして、和希くんを」


「いや、だってー、和希は一度来てるし、まあ、一応協力者なんだから、除け者にするわけにはいかないでしょ?」


「でも……」


「それで、今日本当に休む? どうする?」


「それは……」


 皐月さんは口ごもった後、おもむろに僕の方へ視線を向けてくる。


 見れば、昨日か今日泣いたせいだろうか、目が赤くなっていた。寝癖も相まって、皐月さんは明らかに元気でなさそうだ。


「ごめんなさい、和希くん」


「えっ? 僕?」


「ええ。その、期待に沿えない形だったから」


「いやいや、期待とか、その、それって、昨日、陽太と一緒に帰った話のこと?」


「ええ」


 皐月さんはうなずくと、ドアをさらに開ける。


「和希くんが来てしまったのなら、仕方がないから、中で色々と話したいのだけれど」


「そしたら、あたしたち、遅刻しちゃうねー」


「なら、別にいいのだけれど」


「冗談、冗談だってー、皐月。まあ、サボるくらい、大したことないし、ねー?」


「ま、まあ、僕はそういうことしたことないから、わからないけど、まあ」


「そう」


 皐月さんは短く答えると、背を向け、奥へ戻っていく。


 閉まりそうになったドアを僕が押さえ、未亜はため息をこぼす。


「こりゃあ、かなり重症だねー」


「そうなの? だけど、本当に落ち込んだりしてるなら、そもそも、会おうとすら思わなかったりするもんだと思ったけど?」


「まあ、そうだけどねー。でも、皐月はそこらへん、しっかりしようとするタイプだからねー。何せ、生徒会役員だもの」


 未亜は立ったまま、履いていたローファーを脱ぐと、中へ入っていく。


「でもまあ、和希と会いたくないとか、あたし以外の人間と干渉したくないっていうことを言うのは相当なものかなって」


「じゃあ、僕はやっぱりいない方が」


「いや、皐月も結局は、和希と話したかったっぽい感じだしねー。むしろ、ここでいなくなられたら、皐月はより塞ぎこんじゃう可能性があるしねー」


「それはちょっと」


「なら、一緒に話しようってことで。レッツ、サボりって感じで、ね?」


 目を合わせてきた未亜に対して、僕は、「あ、うん」と曖昧にうなずいた。


 といっても、僕が話を聞いたことで、皐月さんは元気になるのだろうか。正直、何も変わらないのではないだろうかというのが僕の本音だった。

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