第22話 姉のことを話す未亜と色々と驚く僕

「いやー、何とか上手くいったみたいだねー」


 僕の横にいる未亜は言うなり、何回もうなずいていた。


 対して僕はうっすらとした不安を抱きながらも、とある方へ視線を移す。


 僕が今いるのは放課後の生徒会室。


 で、ガラス窓から地上の方を眺めていた。


 視界には昇降口から校門へ続く舗道があり、そこを二人の男女が並んで歩いている。陽太と皐月さんだった。


「まあ、後は皐月次第ってことで、あたしたちは様子見だねー」


「様子見ね……」


 僕は口にしつつ、近くまで持ってきた椅子に座り、ふうとため息をこぼす。


 未亜は様子に気づいたのか、顔を移してくる。


「冴えない顔してるねー、和希は」


「まあ、その、何か陽太を騙すようなことして、それで、皐月さんと一緒に帰ってもらっているから、まあ、その、変に罪悪感が……」


「気にしすぎだよー、和希は」


 未亜は近づくなり、僕の肩を何回も強く叩く。


「まあ、ほら、だって、和希があたしに呼ばれるってことは柏木くんにとって、違和感ないことなんだもん。これしか方法がないっていうか、仕方ないよー」


「これしか方法がないっか……」


 僕は声を漏らしつつ、放課後、陽太と皐月さんを一緒に帰らせる策を振り返る。


 内容としてはこうだ。


 まず、放課後、普通に僕は陽太と帰るために教室を出る。


 だが、下駄箱へ行く前で、未亜が僕に用件があるとかで、声をかけ、陽太と別れる。


 一人になった陽太が下駄箱前へ行くと、先に待っていた皐月さんが話しかける。まあ、かなり勇気があることなのだが、致し方ない。


 そして、お互いの親友、僕と未亜のことを話題にして、途中まで一緒に帰ろうと持ち掛ける。


 とまあ、策なのかわからないけど、といった感じだ。


 結果としては、ガラス窓から見える陽太と皐月さんの姿で一目瞭然だ。


「そういえば、何だっけ? 柏木くんの妹さん、だっけ? 現れるのかなーって」


「ああ、それは多分、遠くから見てるんじゃ」


「遠くから?」


「いや、何でもない」


 僕は慌てて、先ほど発した言葉を打ち消す。まさか、瑞奈と通じてるというのを知られるのはまずいと思ったからだ。


 だが、未亜は突っ込もうとせず、「まあ、そこは何とかなるでしょ」と適当なことを言う。


「でも、まあ、二人一緒にいるところから、柏木くんは皐月に対して、特に距離を置きたいとか、そういう感じではないってことなんだろうねー」


「そう、だね」


 僕は相槌を打ちつつ、普段、教室が一緒の陽太と皐月さんを思い出す。


 考えれば、二人が話をしているところを見たことがない気がする。挨拶くらいなら、すれ違いとかでしていたところがあるかもしれないけど。とはいえ、どちらかが積極的に接しようという様子はあまり目にしたことがなかった。


「これでまあ、皐月は改めて一歩を踏み出せたかなーって」


「陽太といずれ付き合うこと?」


「さあ、それは上手くいくかどうかは、神のみぞ知るっていうところだねー」


 未亜は言いつつ、ガラス窓の枠に腰を掛ける。同時に、ポニーテールの髪がそよ風に揺られ、僕は思わずドキリとしてしまう。


「うん? 和希?」


「いや、その、な、何でもない」


 僕はとっさに目を逸らしてしまう。顔が熱い。


「へえー。もしかして、あたしに惚れたとか?」


「いや、そんなことは別に」


「ふーん。まあまあ、そうであっても、そういうのが男子らしいっていうものだから、あたしは別に嫌に思ったりしないよー」


 未亜は言いつつ、おもむろにスマホを取り出す。


「にしても、昼休み終わり間際から五時間目の間で、まあ、何とかここまでやれて、よかったんじゃないかなー」


「まあ、そこらへんは未亜に感謝したいかなって」


「だね」


 未亜は返事をすると、窓枠から体を離し、中にある空いてる椅子に座りこむ。


 というより、今いる生徒会室は僕と未亜しかいない。


「そういえばだけど」


「何?」


「この生徒会室って、皐月さん以外の生徒会の人を見たことない気がするんだけど」


「ああ、今は中間テスト一週間前だからねー」


「いや、そういうことじゃなくて……」


「うん? じゃあ、どういうこと?」


「ほら、今もそうだけど、僕ら一年が勝手に生徒会室を使ってるから、その、怒られないかなって」


「ああ、それなら、大丈夫大丈夫。ちゃんと、姉ちゃんの許可は貰ってるし、こうして合鍵もあるしねー」


 未亜は口にすると、片手で鍵を示してくる。


 だが、僕は未亜が口にしたある単語が気になってしまう。


「姉ちゃん?」


「ああー、そういえば、言ってなかったっけ? あたしの姉ちゃん、生徒会長だって」


「いや、初耳なんだけど……」


「でも、見たことはあるよね?」


「まあ、それは、入学式の在校生代表の祝辞とか、後は全校集会とかで……」


 確か、生徒会長は真面目というより、どこかざっくばらんとした雰囲気だったような。時折、他の生徒会役員とかに咎められてるような場面を何回か見たことあるし。


「まあ、姉ちゃんは生徒会長っていう柄じゃないんだけどねー」


「でも、選挙とかで生徒会長に選ばれたんじゃ?」


「いや、無投票当選だよ、姉ちゃんは」


「はっ?」


 僕は驚くけども、未亜は大したことないような表情を浮かべる。


「そんなことあるの?」


「まあ、そもそも、うちの学校は生徒会役員をやりたがる人が少ないっていうのかなー、だから、人数もギリギリみたいだよー」


「そ、そうなんだ」


 僕はうなずくも、今度は別の疑問が浮かんでくる。皐月さんのことだ。


「でもだけど」


「何?」


「皐月さんって、生徒会役員だよね?」


「そうだよー」


「考えれば、入学してから、生徒会選挙とかってなかったような……」


「そうだねー。まあ、皐月はあれだね、コネだね」


「コネ?」


「というより、あたしが姉ちゃんに推薦して、そのまま生徒会役員になったっていうのかなー。まあ、そんなところ」


 未亜はさらりと色々衝撃な事実を述べているのだけれど、僕はどう反応をすれば。


 というより、未亜の推薦だけで、生徒会に入れるんだなっていう。


「あっ、一応勘違いしないでね。あたしはあくまで姉ちゃんに生徒会に適任な人を知ってるよーっていうので、皐月を紹介しただけで、無理やり生徒会役員にしたわけじゃないから」


「いや、紹介した時点で、結構強引な気がするけど」


「そう?」


 首を傾げる未亜。惚けているのか、あるいは本当に不思議そうにしているのか、どっちなのだろう。


 まあ、とりあえず、皐月さんが生徒会役員になった経緯は色々と特殊なルートを経たということだけはわかった。


「まあ、次の生徒会長は皐月で決まりかなー」


「そうなの?」


「うん。まあ、それくらい、人材不足らしいよ、うちの学校は」


 未亜は声をこぼすと、おもむろに僕と目を合わせてくる。


「よければ、姉ちゃんに生徒会に入ってもらえるよう、あたしから推薦してあげよっか?」


「いや、結構です。色々と面倒そうだし」


「だよねー」


 未亜は笑いをこぼすと、持っていたスマホの方へ目をやる。


「っていう間に、皐月は学校を出て、近くの横断歩道を過ぎたみたいだねー」


「わかるの?」


「まあねー。一応、GPSアプリで皐月のスマホがどこにあるかわかるようにしてるから」


「いや、それって、単なる監視みたいなものじゃ」


「人聞きが悪いよー、和希」


「いや、僕なんて、陽太にそういうことはしていないし」


 僕は答えると、椅子から立ち上がり、おもむろに歩き始める。


「もう、帰り?」


「まあ、その、横断歩道まで行ってるなら、まあ、今から外出ても鉢合わせすることはないかなって」


「だったら、あたしも帰ろうかなって」


 未亜はスマホをしまうと、壁際に置いてあった学校の鞄を肩に提げる。


「まあ、後日、どうなったか、皐月から聞いてみることにして」


「ちなみにだけど」


「何?」


「その、僕と未亜が会う用件とかって、どうしようかなって」


「用件?」


「ほら、さっき陽太と別れる際に、一応、未亜に声をかけられたっていうのがあるから、後で陽太に何があったのかとか、話すかなって」


「へえー。柏木くんもそういうの気にする感じなんだねー」


「まあ、五回も会ってることになっていれば……」


「五回?」


「いや、金曜の昼休みと放課後、それに土曜と今日の昼休みと放課後で計五回」


「よく覚えてるねー。というより、そこまで覚えてるっていうのは、女子によってはドン引きされるところだよー」


「そう、なの?」


「まあ、そういう女の子もそういうことはしっかり覚えてるのが普通だけどねー」

 未亜は言うなり、学校の鞄を手に、生徒会室を出ようとする。


「じゃあ、帰ろうっか? 和希」


「あっ、うん」


 僕はうなずくなり、複数の机を寄せ合ってできたテーブルにある学校の鞄を手にする。


 とりあえず、瑞奈への報告は不要だろうと考え、僕はMINEを開くことはなかった。

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