第21話 上から目線の瑞奈と相談をする僕

「それで、わたしに電話してきたのですね」


 スマホから、瑞奈の呆れたような声が耳に届いてくる。


 僕は生徒会室でお昼を取った後、屋上に繋がる階段の踊り場にいた。壁に寄りかかり、周りに人がいないことを確かめつつ、MINEで瑞奈と電話をしている。


「普通、そういうのは自力で解決をするというものだと思うのですが」


「まあ、そうだけど」


「それに、内容としては、わたしにとって、何のメリットもないものですよね?」


 瑞奈の指摘に、僕は何も言えなかった。


「まあ、でも、放課後、高村先輩がお兄さんと帰ろうとしてることを教えてもらっただけでもそれはそれでいいことを知りました」


「妨害する気?」


「お兄さんに何かしようとすればです」


「じゃあ、一緒に帰るとか」


「いえ、ここはですね、あえて様子を見てみたいものです」


「様子?」


「はい」


 相槌を打つ瑞奈はどこか楽しげな感じだった。


「一度、お兄さんと高村先輩を二人っきりにしてみて、どういう感じになるのかです」


「でも、それでもし、陽太と皐月さんの距離が縮まったりしたら……」


「その時は止めます」


 力強い瑞奈の返事。


「でも、高村先輩は一度、振られてるんですよね? お兄さんに」


「まあ、それはそうだけど」


「一度振っている相手を好きになるなんて、よほどのことがない限り、難しいというのがわたしの見解です」


「それは僕でも思うけど」


「で、富永は何かするのですか」


「確か、ただ、遠くで様子を観察するとか何とか言っていたくらい」


「ということは、わたしと同じことをするんですね。何だか納得がいきませんが」


 不満げな瑞奈の声がスマホ越しから聞こえてくる。


「それで、先輩はどうするのですか」


「いや、僕も同じように遠くで見守ろうとかって考えてるけど」


「でも、それをする前にどうすればいいか困っているんですよね」


「まあ、恥ずかしいことだけど」


「まったく……」


 スマホから瑞奈のため息が聞こえてくる。年下に呆れられたような対応をされてしまうのは何とも情けないけども、しょうがない。だって、どう陽太を皐月さんと引き合わせるか、今のところ、策がないからだ。


「なら、仕方ないですね。わたしが一肌脱ぎます」


「えっ? でも、瑞奈にとって、皐月さんはいわば、ライバルみたいなものじゃ?」


「なら、何で、そのライバルに先輩は電話をしてきたのですか」


「いや、まあ、それは」


 僕は何も言い返せず、黙るしかない。


「まあ、高村先輩が先輩に協力を仰いだけども、肝心の先輩が何もできず、高村先輩がお兄さんに近づくことすらままならないとなりますと、ちょっと不憫ですもんね」


「何だか、すごい上から目線で話してるような……」


「それに、高村先輩は一度振られているというハンデがありますし」


「ハンデね……」


 まるで、瑞奈が皐月さんよりも陽太と付き合える可能性が高いとでも言いたげだ。


「それで、その、具体的には?」


「具体的にですか?」


「そう」


「そうですね……」


 瑞奈は口にするなり、なぜか黙り込んでしまう。もしかして、何も案がないということじゃなければいいけど。


「とりあえず、お兄さんに連絡して何とかします」


「何とかしますって、その、何とかをどうするか知りたいんだけど」


「何とかは何とかです」


「それはつまり、これから考えるってことだよね?」


「そうとも言いますね」


「いや、その、瑞奈。無理してやらなくても」


「無理はしてないです。何だか、先輩と同じように策がない人間になるのは嫌だと思っただけです」


「やっぱり、策がないんだ……」


 僕は頭を抱えつつ、どうやら自分で改めて頭を巡らせないといけない予感がしてきた。


「というよりです」


「はい」


「先輩はお兄さんと高村先輩、双方に接点があるのですから、わたしよりも策は思いつきそうな気がしますが」


「急にそれを言われても……」


「絶対にそうです。仮にわたしが先輩の立場なら、絶対にいい策を思いつくと思います」


 瑞奈は強い語気で声を上げる。自分が何も案が浮かばないことは棚に上げて、僕に何とかしろということらしい。まあ、元は僕が相談をしてきたものだから、おかしくはないのだけれど。


 僕は考えた末、「わかったよ」と弱い語気で声を漏らす。


「とりあえず、わたしは放課後、校門前で隠れてお兄さんが出てくるのを遠くから見ています」


「わかった。まあ、瑞奈の期待に沿えるような形にできるように善処するよ」


「善処しすぎて、お兄さんと高村先輩が仲良くなるようなことになったら、わたしは先輩をぶん殴りますが」


「そこらへんはまあ、大丈夫かなって。むしろ、そういうことができる策があるなら、教えてもらいたいくらいだし」


「少なくとも、わたしはそういう策を知っていても、先輩には絶対に教えないですね」


「だろうね」


 僕は言いつつ、乾いた笑いをこぼす。


 そして、ついでに陽太の報告、誰々の女子が挨拶をしてきたとか云々を教えるなどした。で、MINEの電話を終え、ふうとため息をこぼす。


「となれば……」


 僕は声をこぼすと、MINEから瑞奈でないアカウントとのやり取りを始めることにした。

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