第15話 富永さんとお昼を済ます僕

 さて、放課後。


 陽太は卓球部の部員らと学食でお昼を済ますとのこと。その後、部活動があるからとかだけど、何より、僕に遠慮したのだろうと思う。


「まあ、富永さんと仲良くということで」


 という言葉を残していくくらいだし。


 幼なじみながらも、未だに陽太の行動はどこか理解が追い付かないところがあったりする。


 とりあえず、僕は深く考えず、陽太の気遣いをありがたく利用させてもらうことにした。


 で、僕は今、駅前にあるカフェでなく、ファーストフード店内にいた。オレンジジュースとフライドポテトを乗せたプレートを手にうろついている。


「あっ、こっちこっちー」


 聞き覚えがある声。見れば、とあるテーブル席にポニーテールの女子が手を振って顔を向けてきていた。


 僕が近寄れば、富永さんは腰を降ろし、ハンバーガーを両手で頬張った。


「長井くんはそれだけで足りる?」


「まあ、節約みたいなもので」


「ふーん」


 富永さんは遅れて向かい側に座る僕の方を見つつ、紙コップのコーラをストローで飲む。


「にしても、本当に長井くんは柏木くんと仲いいよねー」


「そう?」


「そうだよー。今日の体育とかも一緒にいたしね」


「まあ、あれはいつもだし」


「その、いつもって言ってる時点で仲いいよねー」


「そう言う富永さんは高村さんと仲良くないの?」


 僕が問いかければ。


 富永さんは「そうだねー」とおもむろに声をこぼす。


「まあ、皐月は生徒会のことで忙しいことが多いし、普段は真面目に勉強とかしてて、あまり気安く近づけないオーラが漂うしね」


「へえー。親友の富永さんでもそう思うんだ」


「まあねー。でも、休みとかは一緒に遊びに行ったりはしてるよ? 何でも、オンとオフの切り替えが大事とか、皐月は言っていたけどねー」


 富永さんは言うなり、自分のフライドポテトを摘まんで食べる。


「長井くんは休日、柏木くんと遊んだりする?」


「まあ、それは普通に」


「いいねー」


 富永さんは笑みを浮かべつつ、話をし続ける。


「で、その、僕を呼んだのは?」


「ああ、えっとね、これから、皐月の様子を見に行こうと思って」


「高村さんの?」


「そうそう」


 引き続きフライドポテトを摘まみつつ、うなずく富永さん。


 対して僕は、「いや、遠慮しようかなと」と拒もうとした。


「何で?」


「それはほら、今日休んだのは僕が間接的にも影響があったからかもしれないし……。だから、それなのに、会うのはあれかなって」


「大丈夫大丈夫。というより、長井くんが来てくれた方がいいと思うだよね、あたしは」


「そういうもの?」


「そういうものだよ」


 富永さんは首を縦に振ると、紙コップのコーラをストローで飲む。


「まあ、今は皐月、ネガティブモード中だから、慎重に接しないといけないところがあるけど、上手くいけば、明日には学校行けるようになるかなって期待してるよ」


「それって、僕次第ってこと?」


「そうだねー」


「逆に、今日、僕が行かなかったら?」


「そうだね、一週間くらいは引きこもっているんじゃないかなー」


「そんなに?」


「まあ、皐月の恋の協力をする相手だからねー。その本人が現れて、色々と話せば、皐月は安心するんじゃないかなって」


「安心?」


「まあ、それは話すより、これを見せた方が早いかもねー」


 富永さんは言うなり、自分のだろう、スマホを渡してくる。


 画面にはMINEアプリが立ち上がっていて、どうやら、高村さんとのやり取りだった。


― 壁ドンみたいなことして、わたし、長井くんに変な人と思われたかもしれない。 ―


― 協力を頼むこと自体、断った方がいいのかも。 ―


― ごめん、未亜。今日、学校休む。長井くんにやっぱり顔向けできなくて ―


― その、未亜の方から、昨日のことはなしってことで、長井くんに伝えてくれたら。 ―


 僕はある程度見た後、富永さんにスマホを返した。


「パッと見、その、すごく落ち込んでるというか、僕に対してすごく申し訳ない気持ちが感じられるような」


「そうだねー。まあ、ネガティブモードだとこんな感じだからね、皐月は。まあ、『死にたい』とかまだ言わないだけ、まだマシな方かもね」


「いや、そうなると、ちょっとヤバいんじゃ?」


「ということで、これ以上悪化させないように、いや、むしろ、皐月を元気づけるために、長井くん、頼むねー」


 富永さんは口にするなり、僕の肩を強く何回も叩く。


「ちなみにだけど」


「何?」


「これで僕が行っても、もし、その、ダメだったら?」


「ダメだったらというのは、例えば?」


「来週になっても、学校に来なかったりとか」


「ああ、それはねー」


 富永さんは言うなり、僕との方へ視線を向けてくる。


「その時はその時だよー」


 富永さんは笑みをこぼすと、自分のハンバーガーを再び食べ始めていた。


 一方で、僕は不安が迸ってきて、フライドポテトを持つ手が止まってしまう。


「まあ、その、とりあえずは行くっていうことで」


「よろしくねー」


 富永さんの気さくそうな返事に、僕は首を縦に振るしかない。


 今更ながら、僕の役目は結構重大だなと感じ始めていた。

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