3日目(土曜日)

第13話 告られた相手を教えない陽太とそれを怪しむ瑞奈と僕

 翌日の朝。


 僕は寝不足のまま、陽太や瑞奈と一緒に住宅街の通学路を歩いていた。


「眠そうだね」


「まあ、ちょっとね」


 僕は欠伸を催しつつ、適当に返事をする。まさか、陽太のこととかを考えていたら、眠れなくなってしまったとは答えづらい。


「お兄さん、先輩のことを気にしても、しょうがないと思います」


 一方で、僕に冷たい反応を示す瑞奈。


「それよりも、お兄さんは高村先輩のことをご存知ですか?」


「高村先輩って、高村皐月さんのこと?」


「はい」


 うなずく瑞奈。


 対して陽太は、頭を掻きつつ、「そうだなあ」と口を開く。


「まあ、クラスメイトだし、それに、中学は生徒会長をしていたからね、もちろん知ってるよ。というより、それを聞いて、瑞奈はどうしたんだい?」


「いえ、その、お兄さんは高村先輩について、どういう印象を持っているのか、気になるんです」


「印象? それって、高村さんが実際どういう人なのか、そういったこと?」


「そう、ですね」


 どこかぎこちない感じで口にする瑞奈。


 おそらく、陽太が高村さんのことをどう思っているのか、探りを入れているようだ。とりあえず、僕は大人しく様子を見てることにして。


「そうだなあ……。和希はどう?」


「えっ? 僕?」


「うん」


 自分の顔を指さした僕に対して、こくりと首を縦に振る陽太。


 瑞奈は陽太が見えない後ろで、何回もかぶりを振る動きを示してくる。僕視点の高村さんに対する印象はどうでもいいという反応だ。


「ま、まあ、イメージ通りっていった感じかな」


「それは、見た目通り、大人びた雰囲気を纏っていて、しっかりとした女性的な?」


「まあ、そうだね」


「ふーん。和希はそういう感じなんだね」


 陽太は僕の方を見つつ、淡々と言葉を述べる。どこか意味ありげな感じがするが、僕は突っ込むことをしなかった。何か面倒なことになりそうだと勘付いたからだ。


「そしたら、自分も同じかな」


「本当ですか?」


「うん。まあ、つまりは、高村さんはイメージ通りの人といった感じだよね」


「そ、そうだね」


 僕は陽太から視線を向けられ、半ば引きずられる形で相槌を打つ。


 だが、瑞奈は納得がいかないのか、「何だか、怪しいです」と声をこぼす。


「そういえば、お兄さんはわたしと出会う前、告られたことがあるんですよね?」


「まあ、そういうこともあったね」


「誰だったんですか?」


「その相手の人かい?」


「はい」


 瑞奈のうなずきに、「そうだね」と声を漏らす陽太。


 と、陽太はあろうことか、僕の方へ顔を映してきた。


「誰だっけ?」


「えっ? それ、僕に聞く?」


「確か、教えなかったっけ?」


「いや、その時は教えてくれなかった気がするけど……」


「そうか……。じゃあ、教えないということで」


「そこまで話して教えないのですか?」



「うん。まあ、相手にとっても、触れられたくない過去かもしれないからね」


 陽太は言うなり、表情を綻ばす。


 まあ、振られたことを今更誰かに伝わることは嬉しいことでもないだろう。


 だが、陽太の返しに、瑞奈は満足とはいっていないようで。


 スマホを取り出した瑞奈は何かを打ち込むと、僕のスマホが震える。


 見れば、瑞奈がMINEで僕に直接メッセージを送ってきていた。


― お兄さん、もしかして、高村先輩のこと、好きとかじゃないですよね ―


 僕はまさかと思いつつも、すぐに完全否定ができないことに、戸惑いを覚えた。


 なぜなら、昨日眠れなかった原因、陽太の好きな相手候補が一人出てきてしまったからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る