第11話 高村さんの監視を頼む瑞奈と照れ笑いをする僕
「ふう」
僕は店員が持ってきたアイスコーヒーをストローで飲むなり、一呼吸入れた。
「喉が渇いてるだけなら、単にお冷を持ってくればいいかと思います」
「まあ、それでもいいんだけど、それは気が引けて」
「なら、はじめから頼まないというのもどうかと思います」
瑞奈は呆れたように声をこぼす。
ちなみに、小遣いのことを考えれば、セルフサービスのお冷を取ってくれればいい話だ。けど、どうにも自分だけ何も払わないという勇気が持てなかった。
「それで、先輩はどうするのですか」
「どうするって何を?」
「高村先輩から頼まれたんですよね? お兄さんと付き合えるようにと。まあ、わたしは絶対に阻止しますが」
「それなんだけど、まず、瑞奈から、陽太が女子と何らかのことがあったら、報告するようにっていう約束をしてるけど」
「そうですね」
「でも、あくまで報告するという頼み事だけで、陽太が誰かと付き合うことになっても、僕は何かしなくちゃいけないという約束はしてないよね?」
「そう、ですね」
どこか不満そうな顔をする瑞奈。まあ、気持ちはわかるけど。
「だから、まあ、ここからは相談みたいなものだけど」
「相談ですか」
「うん。だから、瑞奈はどうするかなって。とりあえず、僕は高村さんから、陽太と付き合えるように協力をするっていう約束は取り付けてるんだけど」
「ちなみにですけど」
「何?」
「高村先輩から、先輩がそういう約束をしてるっていうのは、他の人に口外しないようにとか、話はなかったのですか?」
「明確には」
「そうですか。だから、わたしにあっさり教えるんですね」
「まあね」
僕の返事に、瑞奈は難しそうな顔をする。
「先輩はどうしてほしいですか?」
「僕?」
「そうです」
「いや、特に何も」
本音を漏らせば、僕は瑞奈の恋を応援したい。でも、あからさまにそれを伝えたら、瑞奈が僕を都合のいいように扱うかもしれない。なので、あくまでポーカーフェイスを貫いた。
「先輩は今の状況、楽しんでいるみたいですね」
「そう?」
「だと思います。お兄さんがわたしか、あるいは高村先輩のどっちと付き合うか、様子見しているみたいに感じます」
「いや、まあ、僕としてはその、陽太が好きになる人と付き合えれば、それが一番満足かなって」
「そうですか」
瑞奈はうなずきつつも、訝しげな視線を僕の方へ送ってくる。理想は陽太と瑞奈が結ばれればいい。できれば、自然な流れでそうなるのがベストだ。
「わかりました」
瑞奈は姿勢を正すと、僕と改めて正面を合わせる。
「先輩、高村先輩がお兄さんに変なことをしないように監視をしてください」
「監視ね……。それは具体的には?」
「そうですね。しばらくは学校内だけでいいです。それに、先輩は高村先輩に協力をするんですよね?」
「まあ、それは、うん」
「なら、それについても、逐一状況を教えてください」
「わかった。でも、教えるだけでいい?」
「それだけでいいです。後は高村先輩が何かしようとわかれば、わたしが全力で阻止します」
「僕はそれに関して、何もしない方がいいってこと?」
「はい。余計な手出しは無用です」
瑞奈の答えに、僕は「わかった」とうなずく。瑞奈は陽太に近づきそうな気配があれば、自力で食い止めたい気持ちのようだ。
「ということで、先輩は引き続き、そういったお兄さんに近づく異性の報告をお願いします」
「うん」
「今日の報告は昨日と違って、かなり濃い内容でしたね」
「そうだね」
「ところで先輩」
「何?」
「先輩は好きな人とかいないんですか?」
瑞奈の問いかけに対して。
僕は照れ笑いを浮かべつつ、首を横に振る。
「いや、いない、かな」
「そうですか」
瑞奈はつまらなそうな感じでぽつりとつぶやいた。
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