第7話 落ち込む高村さんと手招きされる僕
生徒会室はしばらく、沈黙の時間が流れていた。
「あはは。ちょっと、あたしがヒートアップしすぎたかなって」
富永さんが場を何とかしようとしてか、乾いた笑いを浮かべつつ、自分の頭を撫でる。
そして、高村さんは俯き、黙ったままだ。
僕はどうにかしようと、とりあえず、口を開く。
「へ、へえー、その、高村さんって、その、陽太みたいな人がタイプなんだ。意外だなって」
「意外?」
顔を上げた高村さんは不思議そうな表情を浮かべていた。
「いや、その、変わってるとか、そういう意味じゃなくて、その、高村さんなら、もっと、こう、真面目な人とかが好みなのかなって」
「柏木くんは真面目ではないということ?」
「真面目じゃないというか、何事もそつなくこなすような感じなだけで、真面目かと言えば、どうかなっていう」
「つまりは、長井くんにとって、わたしは柏木くんと合わないと言いたいというわけね」
「いや、僕は別に」
「そうよね、やっぱり、わたしと柏木くんは合わないわよね……」
高村さんは僕の言葉を打ち切るようにして、あからさまに落ち込んだように元気がなくなる。
僕はまずいと思いつつ、頭を巡らそうとすると、富永さんが手招きをしてくる。何だろうと思っていれば、彼女は立ち上がり、室内の隅にまで足を進ませた。つまりは、こっちに来てという意味らしい。
僕は再び俯いた高村さんが気になるも、音を立てずに、席から離れた。
で、富永さんのそばまで歩み寄る。
「長井くん。今の皐月は、完全にネガティブモードに入っちゃったから」
「ネガティブモード?」
「まあ、長井くんはこういう皐月の姿は見たことないかもねー」
富永さんは言いつつ、顔に陰りが走っている高村さんの方を心配そうに見つめる。
「皐月って、思い込みが激しいというか、なんというか、こうと思ったら、そのまま過剰に思い込んで、それがネガティブなことだったら、とことん落ち込んじゃうタイプなんだよねー」
「そうなの?」
「ほら、たまに皐月って、欠席の時とかあったでしょ?」
「それはまあ……。でも、あれって、風邪とか、そういう体調不良じゃ?」
「ううん。皐月って、そういう健康に関しては人一倍気を配ってるから、滅多に風邪を引くことなんてないから」
「じゃあ、今までの欠席の理由って?」
「まあ、どちらかといえば、こういうメンタル的なものかなー。前なんて、告ってきた男子を断っただけで翌日、休んじゃったしねー」
「それは何で?」
「振ったことで、わたしは嫌われたんじゃないかって」
「ああ、そういう……」
僕はうなずきつつ、改めて高村さんの様子を確かめる。
ということは、さっきの僕が場を何とかしようとした発言がまずかったのかもしれない。いや、ダメだったのだ。
「ちなみにだけど、このまま何もしないと?」
「明日は確実に休むねー。うん、絶対に」
力強く首を縦に振る富永さん。
何だかまずい感じになってきたような。
と、それを察してか、富永さんが僕の肩に手をやる。
「ということで、これは責任取らないとねー」
「責任?」
「そう、責任」
「つまりはどういう……」
「簡単だよ。皐月と柏木くんがくっつくように協力することを皐月にアピールすればいいんだよー」
にこやかに微笑む富永さんは、どこか今の状況を楽しんでいるかのようだった。
「もしかしてだけども」
「何かな?」
「こういうことが起こるかもしれないとわかってて、僕を呼んだとか?」
「まあ、万が一引き受けてくれないってことになったら、色々とねー」
富永さんは言うなり、今度は僕の肩を何回も軽く叩く。
「というわけでよろしくねー」
「ちなみに、ここで僕が逃げたりしたら?」
「そうだねー、しばらくは皐月、家に引きこもっちゃうかも。こればかりは引き金を引いたのは長井くんだからねー」
「何だか、すごい騙された感じがするような、しないような」
「気のせい、気のせい」
富永さんは言いつつ、席へと戻っていく。そして、俯き加減の高村さんに何やら話しかけると、本人は顔をゆっくりと上げた。
「ということで、ほら、長井くん。こっちこっち」
富永さんに再び手招きされる僕。
僕はどこか気が進まない自分がいながらも、逃げようとする勇気が出ない。
なので、仕方ないといった感じで、先ほど座っていた席へ戻るのだった。
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