第4話 富永さんとの談笑と過去を振り返る僕
「じゃあ、あそこでちょっと話そっか」
富永さんに連れてこられたのは、学食前にあるベンチだ。他にもあり、生徒らが座って、弁当なり、僕と同じパンを食していたりしている。
僕は特に抗うことはせず、空いていたベンチに富永さんと並んで座った。
ちなみに、女子とこうして一緒にいるというのは高校では初めてかもしれない。
というくらい、僕は異性と交流をするという機会をほとんど持たない。
まあ、つまりは、女子とはほとんど縁がない男子というわけだ。
なので、緊張をしていないとなれば、ウソになる。
「あれ? もしかして、長井くん、緊張してる?」
「いや、その、別に」
「いいよいいよ。変に隠さなくても。ってことは、長井くんって、今まで彼女とかいたことないでしょ?」
「それはまあ、そういうのは……」
「まあまあ。そういうのも変に隠さなくても。あたしだって、彼氏とかまだできたことないからねー」
「そうなの?」
「えっ? もしかして、長井くんにとって、あたしは彼氏とか普通にいそうな陽キャな印象だった?」
「いや、まあ、ほら、富永さんって、クラスの誰とも気さくに接したりするから、みんなから人気があるなあって思って。だから、彼氏とか普通にいたりとか思ってたから」
「いやいや、みんなに人気がありそうだからとかで、それイコール彼氏がいるっていうのは、早とちりし過ぎだよー」
富永さんは笑みを浮かべつつ、手を何回も横に振る。
「とりあえず、前置きはそのへんにして、本題なんだけど」
富永さんは先ほどまでの和らいだ顔からどこか、照れくさそうな感じになる。
「柏木くんってさ、彼女とか、今、いるのかなーって」
「陽太のこと?」
「そうそう」
「いや、多分、いないと思うけど」
「多分?」
「いや、単にそういう話とか、聞いたことがないっていうだけで」
「へえー。それなら、もしかしたら、長井くんには黙ってるっていう可能性もあるってことかな?」
「いや、それはないと思うけど」
「そうなの?」
「まあ、中学の時、一度女子に告られたことがあって、そのことは僕に一度相談してきたくらいだから」
「へえー。やっぱり、柏木くん、モテるんだねー」
富永さんはうなずきつつ、どこか納得げな顔をする。
「いや、告られたのはそれっきりかなと思うけど。まあ、その後は色々あったと思うし」
「色々?」
「いや、まあ、これは特に黙ってる必要とかないからいいんだけど……。陽太って、中二の時に親が再婚したから」
「そうなんだ」
富永さんは特にボケたりせず、真剣そうに耳を傾けているようだ。なので、僕としてもどこか話しやすい雰囲気から、異性に対する緊張感が薄らいできた。
「それでその時に相手の親に連れ子がいて」
「もしかして、朝にいつも柏木くんと一緒にいる中学生の子?」
「そうそう。妹になるんだけど、再婚した時は初対面だったから、色々と大変だったみたいだから」
僕は話しつつ、当時のことを思い出していた。確か、瑞奈は陽太に対して、はじめは距離を取っていた。ましてや、僕に対しては、無言だったし。だから、いつからだろうか、瑞奈が陽太と仲良くなり、恋愛感情まで抱くようになったのは。今では、僕が瑞奈から、陽太に近づくような女子がいないか、報告を求めるよう状態だ。
「そっかー。柏木くんも色々とあったんだねー」
「まあ、だから、彼女とかできれば、僕に相談とかしてきそうだなって」
「随分と柏木くんと仲いいアピールをしてくるねー」
富永さんは茶化すように言うなり、僕の肩を小突いてくる。女子に体を触れられるということに、僕は照れてしまう。何とか顔を逸らして、バレないようにしたけれど、実際はどうだかわからない。
「となれば、そっかー。柏木くんは今のところ、彼女がいないという感じなんだねー。幼なじみの長井くんから見て」
「まあ、そういうことになるけど」
「なるほどねー。まあ、信ぴょう性もありそうだし、これは一度話をして、後のことはまた別途」
「富永さん?」
「あっ、ごめんごめん。手短にって言ったのに、ちょっと長くなっちゃったねー」
富永さんは慌てたように立ち上がる。で、手を振って、「ありがとー」と言い、足早に立ち去ってしまった。
一人ベンチに取り残された僕はただ、茫然としてしまう。
「結局、何だったんだろう」
僕は首を傾げるも、その場で疑問が解消されることはなかった。
とりあえず、コロッケパンと焼きそばパンのお供になるコーヒー牛乳を買おう。
僕は遅れて立ち上がると、学食前にある自販機へと向かった。
教室にいる陽太は僕の帰りを待ってくれている。だから、早く戻らないといけないわけで。
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