2日目(金曜日)

第2話 陽太の気遣いと再びため息をつく僕

 翌日の朝。


 曇りがちな空が広がる中、僕は学校へ向かうため、住宅街の通学路を歩いていた。


「はあ……」


「何か悩み事かい?」


 僕のため息を察してか、横にいた男子が声をかけてくれる。幼なじみでクラスメイトの柏木陽太だ。端正な顔つきと普段は気さくそうな笑みが相まって、一部女子から人気が高い。まあ、瑞奈に教えたら、面倒なことになるので黙っている。なので、何か動きがあれば、早々に伝える心構えはしていた。


「いや、まあ、ほら、今度中間テストあるから」


「ああ、そういえば、もうすぐそんな時期だね」


 陽太は言うなり、顔を上げる。


「なら、今度、家で一緒に勉強とかしようか」


「いや、悪いよ。ほら、陽太は部活で忙しそうだし」


「けど、試験一週間前からは、部活動は休みになるからね。その間なら」


「ああ、そういえば」


 僕は声をこぼしつつ、どこか物足りなさを感じ、陽太の横へ視線をやる。


 見れば、瑞奈が不満げな表情で僕の方を睨みつけていた。


 そう、学校がある日の朝はいつも、僕と柏木兄妹は一緒に登校をしている。


 で、普段なら、瑞奈が陽太とイチャイチャしているのを見ているだけなのだが。


「先輩」


「な、何?」


 僕は意表を突かれて、ぎこちない受け答えをしてしまう。昨日の放課後では色々と話したが、陽太がいる前で声をかけるのは珍しい。しかも、機嫌が悪そうだ。


 と、瑞奈はスマホを取り出し、何やら次々と打ち始める。


 そして、遅れて、僕のスマホが震えた。


「今日もお兄さんと仲がいいみたいですね」


 口にした瑞奈はスマホをしまうと、綻ばした顔を向け、陽太と目を合わせる。何だか不気味だ。


「お兄さん。わたしも今度、一緒に勉強をしたいです」


「えっ? でも、瑞奈は頭いいし、自分の助けがなくても」


「わたしはお兄さんと勉強がしたいです。ダメ、ですか?」


 瑞奈は上目遣いで尋ねていて、対して陽太は頬を指で搔いていた。まあ、瑞奈としては、単に陽太と二人っきりの時間を少しでも作りたいだけだろう。って、同じ家に住んでいるのだから、わざわざ外で約束をする必要がないような。


 と僕は内心感じつつ、スマホを開く。

 MINEから一件通知。相手は当然のごとく、瑞奈だ。


― お兄さんの邪魔をしないでください ―


 スタンプや絵のアイコンもないただ文字だけのメッセージ。本当にそれだけ。さっきスマホで打ったのだろう。


 つまりは、僕が陽太と話をしていたことに対して、苛立ちを募らせたのだ。嫉妬、あるいは敵視だろうか。


 僕は陽太に気づかれないように、こっそりと再びため息をついた。


 瑞奈は本当に兄の陽太のことが好きらしい。


 血が繋がっていないのだから、あわよくば、いや、本気で結ばれたいと思っているはずだ。


 まあ、僕としては陽太ではなく、女子に恋愛感情を向ける方なので、気にしない。お好きにどうぞというスタイル。最近は結ばれたらいいよねとか願うようになり、瑞奈の変な頼みとかを受けたりしている。


 だから何だろう、瑞奈が今よりさらに、陽太に対する気持ちを拗らせてしまったら。


「不安だ」


 僕は楽しげに会話をする瑞奈と陽太を見つつ、重い足取りで並んで学校へ向かうのだった。

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