BLAVRA

隠井 迅

プロVRA VRAとは?

 〈VRA(ゔら)〉――

 これは、筆者がフランス語を使って勝手にでっち上げた略語である。


 最初の〈V〉、〈Voyage(ヴォワイヤージぅ)〉とは、フランス語で「旅」を意味する単語である。ちなみに、日本国内で時々耳にする〈ヴォ〈ヤ〉ージュ〉というのは、この単語をローマ字読みした結果のスペルの読み方の誤解であり、ここでは、正確なフランス語の読み方ルールに則った方を採用したい。


 そして続く〈RA〉に関してなのだが、「形容詞・名詞」という語順の英語とは違って、フランス語の文法では、〈名詞・形容詞〉といった語順で、単語を並べるルールなのだ。ということは、例えば、仏語の〈UE〉は英語では「EU」、仏語の〈QI〉は英語では「IQ」ということになる。このことを考慮に入れて、〈RA〉の語順をひっくり返せば、もはや、これが、何を意味しているかは明らかであろう。


 そう、〈RA〉とは「AR(Augmented Reality)」のことなのだ。

 ちなみに、〈VRA〉の第二の文字〈R〉、仏語では〈Réalité(レアリテ)〉となるのだが、これは「現実」のことである。

 そして最後の文字の〈A〉は、仏語では〈Augmenté(オーグマンテ)〉となるのだが、英仏海峡を越えていても、英語との違いは語尾だけで、ほぼ同じ発音と意味になっているのが分かるだろう。

 つまるところ、〈RA〉とは、直訳したら「増大された現実」、意訳すると「拡張現実」を意味するわけだ。


 すなわち――

 〈VRA〉とは「拡張現実的な旅」のことを意味する。


 そもそも「拡張現実」とは、自分たちが生きているこの現実に、何らかのテクノロジーを利用して、その場に存在し得ない〈虚構〉的な情報を重ね合わせることであり、現実空間を虚構で〈盛る〉が故に、〈RA(現実増大)〉なのである。

 つまり、あたかも非現実的な存在が現実空間において実在しているかのように体験できる、という点が「拡張現実」の肝なのである。


 だがしかし、ここで疑問として湧いてくるのが、〈AR〉と〈VR〉、フランス語を使うのならば、〈RA〉と〈RV〉とは、一体どう違うのかと、いう点である。


 例を挙げると、自宅にて、テレビで旅番組を観たり、パソコンで地図アプリの写真機能などを利用して、つまり、自宅に居ながらにして、あたかも旅をしたかのような虚構現実を味わうのが、要するに〈RV〉的な旅で、これに対して、実際に旅をしている時に、現実空間には本来存在し得ない非現実的な情報を、テクノロジーを利用して、そこに再現させるのが、つまるところ〈RA〉的な旅である、と定義付けて差支えないのではなかろうか?

 

 そこで、発想してしまった。

 そもそもの話、いわゆる〈聖地巡礼〉、小説・漫画・アニメ・ゲームといった虚構作品の舞台背景を実際に訪れる〈舞台探訪〉とは、まさに〈RA〉的な旅なのではなかろうか。

 自分の視聴体験に基づいて、脳内で場面を再現させながら現地を訪問するのが、もしかしたら、通常の〈聖地巡礼〉の在り方なのかもしれない。しかし、例えば、端末を片手に、舞台背景になっているシーンを視聴しながら、現地を訪れたとしたら、それはまさに、現実空間に虚構現実を重ねる〈RA〉的な行為と言い得るだろう。


 つまり――

 このエッセイは、筆者が行った〈VRA〉的な物語の舞台探訪の実録である。


 それでは、タブレットを片手に、まずは、千代田区辺りを〈BLAVRA(ブラゔら)〉してみることにしたい。

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