第199話:コアラの行方
「ちくしょう、どこに行ったんだ……」
追いかけた先は広い池になっていて、ボート遊びを楽しむ人たちの姿があります。
「見てください、あのボートの上です!」
そこには、見知らぬおじさんの手漕ぎボートの縁でリラックスしているコアラの姿がありました。
おじさんはコアラが乗っていることに気づいていないようで、ボート遊びを楽しんでいます。
「水に落ちたら大変であります!」
「過去にコアラが泳いだ事例はありますが、あの子が泳げるとは限りませんからね」
「よし、捕まえるぞ!」
ワタクシ達はボート乗り場へ走りました。
「おい、ボートを借りたいんだが」
ワタクシが一緒に居たのがいけなかったのでしょうか。カップルだと思われたのか白鳥の形をしたボートに案内されました。
「交渉している暇はねぇ! 行くぞ!」
ワタクシ達が乗り込むとアレクが全速力でペダルをこいだおかげで、ものすごいスピードでボートは進み始めます。
「うぉぉぉぉぉぉ! そのボート! 待ちやがれ!」
「ひっ、な、なんなんですか⁉」
いきなり猛スピードで迫ってくるスワンボートに驚いたのか、手漕ぎボートに乗っていたおじさんは反射的に逃げ出しました。
そしてボートは柵にぶつかり、のんびり座っていたコアラは柵に移動して再び逃げてしまったのです。
「ちくしょう、追いかけるぞ!」
まるで猿のような動きで素早く逃げる灰色の背中を追って、ワタクシ達が向かったのは遊園地エリアでした。
この動物園はメリーゴーランドやミニコースターなどの子ども向けの乗り物が併設されているのです。
引き続きコアラの姿を探して周囲を見回していると、回転ブランコの座席にその姿を見つけました。
この遊具は上昇して空中で大きく回転するのです。もしコアラがブランコから落ちたら大変なことになります。
「おーい! そのブランコ待ってくれ!」
アレクは叫びましたが、係員の人はその声に気づかずに遊具の電源を入れて作動させてしまいました。
「ジェル、下で待機してろ!」
アレクは跳躍すると、動き始めたブランコの鎖を片手で掴みました。そのままブランコはどんどん上空へと昇っていきます。
その間に彼はアクションスターも真っ青な動きで、足をかけて這い上がりなんとかブランコに腰掛けました。ずいぶん無茶をしたものです。
コアラの方は非常に落ち着いた様子でアレクのすぐ近くのブランコに座っています。
アレクはコアラの方に手を伸ばそうとしますが、ブランコの動きが激しいので届きそうにありません。
そのうち、ブランコの動きがゆっくりになり下に降りてきました。
アレクが手を伸ばし今度こそコアラを捕まえようとしたのですが、残念ながら柵の隙間からふたたび脱出してしまいました。
「アレク氏はむちゃくちゃするであります! 怖かったであります!」
「あー、ごめんな。キリトが一緒なのすっかり忘れてた」
キリトはアレクの肩にかけられた鞄の中に居たのです。
いつ振り落とされるかと、気が気ではなかったでしょう。
「すまん、でも今はコアラを追いかけねぇと……ジェル、キリトを預かっててくれ」
アレクから鞄を受け取ると彼は全速力でコアラを追いかけて行きました。
「ちょっとアレク! ……しょうがないですねぇ」
ワタクシは体力が無いので、全速力とはいきません。
まだ怒っているキリトをなだめつつ遅れながらも追い付くと、そこにはコアラを無事に抱っこするアレクの姿がありました。
「いやー、疲れたなぁ」
それからすぐに飼育員さんと合流して、捕まえたお礼として特別にワタクシ達はコアラと記念写真を撮らせてもらえることになりました。
「それじゃ撮りますよ~」
「おう、よろしくな!」
飼育員さんに撮ってもらった写真を見てみると、アレクに抱っこされたコアラはカメラの方を向かずにアレクの方を向いています。
結局写真はお尻を向けていたんですけど、アレクにはコアラの顔が見えたようで、彼は満面の笑みを浮かべていたのでした。
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