第125話:DXだったロボ

 魔法陣の上で頭の形をイメージしながら魔術で変形させていきます。

 こう長く……長く……


「待ってジェル! 頭だけがうにょ~んって伸びてるよ! 全然尖ってない!」


 気が付けば、ロボの頭部は不自然に縦に伸びていました。元に戻そうとすると余計変な形になったので戻せません。


「……ま、まぁ頭や顔はそんなに重要じゃないですよ、大事なのは装備です、装備」


「そうかなぁ」


「えっと、他にはどこを改造すればいいんですかね?」


「胴体と腰に装甲が追加されてるね」


「装甲って何ですかね?」


「うーん、なんかすごい攻撃を弾くやつだよ。ほらこの分厚くなってる部分」


 シロが見せてきた画像を参考に、装甲を追加していきます。

 装甲の材料はちょうどおやつに食べたプリンの空き容器があったので、そこからプラスチックを拝借することにしました。


 プリン、美味しかったなぁ……そんなことを思いながら作ったのがいけなかったのでしょうか。

 なぜかロボットの胸と腰には装甲ではなく、下着みたいなピンクのフリルが追加されてしまいました。


「こんなのぜんぜん攻撃弾けないよ!!!!」


「だ、大丈夫です! 装甲はそんなに重要じゃないですよ、大事なのは武器です、武器」


「そうかなぁ……」


 シロは、取り返しの付かないものを見るような冷めた目でロボットを見ています。


「最後はキャノン砲の追加だね。これだけでもなんとか成功させようよ、ジェル」


「うぅ……がんばります」


 意識を集中させて細心の注意を払い、スマホで何度も画像を確認しながらワタクシはキャノン砲を制作しました。


 そのおかげでしょうか。今度は良い感じに造形が上手くいったのです。


「やった……!」


「すごいすごい! ジェルもやればできるんだね!」


「当然です! ワタクシは天才錬金術師ですから!」


 我ながら素晴らしい出来映えです。これならきっとアレクも大満足でしょう。


「後はこれをロボットの肩に融合させて……」


 頭が変に伸びているし胸と腰にフリルが付いていて、残念すぎるロボットですが、終わりよければすべて良しです。

 ワタクシは呼吸を整え、指先に魔力を集中させました。

 その時、急に鼻がムズムズして、集中力が途切れて――


「ふぁ……ハクションッ! あぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 違います違いますっ! 一番付いてはいけないところに砲身が!!!!」


 ロボットのフリルの間から覗く股間に、立派な砲身が付いてしまいました。


「なんだか卑猥ひわいなロボットになったね」


「うぅ、せっかくキャノン砲自体は成功したのに……」

 

 作り直しをするべきか考えながら時計を見ると、もうアレクが帰ってくる時間になっています。


「どうしましょうこれ……」


「そうだねぇ」


 どうあがいてもフォローしようがない「DXだったロボ」を見ながら思案していると、玄関から兄のアレクサンドルの元気な声がしました。


「たっだいま~! お兄ちゃんのお帰りだぞ~!」


「……お帰りなさい、アレク」


「おかえり、アレク兄ちゃん」


「おう、シロも来てたのか。どうしたんだ、元気ねぇな?」


「えぇ……まぁ……」


 言葉を濁すワタクシを不思議そうに見ていたアレクですが、すぐにテーブルの上のロボットに気付きました。


「お、そこに置いてるのってもしかしてパン男ロボ⁉」


「え、あ……これは……」


「すげぇ、こんなの見たことねぇぞ! もしかしてジェルが改造したのか?」


「あ、はい……実はそれ、バレンタインチョコと一緒にアレクにプレゼントしようと思ってたんですが」


「マジか⁉ 俺にくれんのかよ! ありがとうな! やべぇ、股間から弾が出るとか、かっこよすぎだろ! フリフリなのもエレガントでジェルらしくて良いな!」


 彼はロボットを手に取ってニコニコしています。

 よかった……アレクの趣味がかなり変でよかった……


 ワタクシはシロと顔を見合わせて安堵しました。


「……よし! さっそく写真に撮ってSNSで皆に自慢しよう!」


「それはやめてください!」


「やめてあげて!」


 その後「DXだったロボット」はアレクの部屋で他のパン男ロボ達と仲良く棚に飾られることになりました。


「アレクが喜んでるなら、それで良し、ではありますけども……」


 もう少し造形の腕を磨きたいと思ったワタクシなのでした。

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