第124話:バレンタインプレゼント

 その日、ワタクシはリビングでバレンタインチョコのラッピングをしていました。


「ねぇ、ジェル。僕の分は~?」


 我が家に遊びに来ている氏神うじがみのシロが、小首をかしげて甘えた声でたずねます。

 彼はこんな時だけ、子どもらしい外見を最大限にあざとく使うのです。


「はいはい、ちゃんとシロの分も用意していますよ」


「やった~! ――そういえば、アレク兄ちゃんは居ないの?」


「えぇ。今日は知り合いのコンビニにヘルプを頼まれて夕方までバイトに行ってるんですよ。店長にお子さんが生まれてから人手が足りないそうで」


「ふーん。アレク兄ちゃんは人付き合い良いよねぇ」


「ですよね。ワタクシも以前その店にお世話になったので一緒に働こうと思ったんですが、アレクに全力で拒否されまして」


「ジェルは、やめといた方がいいと思うなぁ」


「そうですか? ワタクシもやっと世の中に馴染めてきたと思ったんですがねぇ……」


 そんなことを言いながら、真っ赤な包装紙でラッピングされたチョコに金色のリボンを結びました。


「さて、後はプレゼントをラッピングして添えるだけですね」


「プレゼント?」


「えぇ。今年はチョコがシンプルなのでプレゼントもあげることにしたんです」


 ワタクシは密かに自室に隠していた箱を持ってきてシロに見せました。


「見てください! アレクが欲しがっていたパン男ロボDXⅡです! 超レアなロボットなんですよ!」


 自信満々に見せたのに、シロはなぜか困った表情をしています。


「どうかしましたか?」


「……ジェル。箱にはパン男ロボDXって書いてあるけど。これ、ひとつ前のロボットじゃない?」


 箱を見てみるとたしかに「DX」とだけしか書かれていません。欲しいのは「DXⅡ」の方なのに。

 どうやら勘違いして違うロボットを買ってしまったようでした。


「困りましたねぇ。返品交換といっても、超レアなロボットらしいので在庫が無いでしょうし。そもそも買ったのはちょっと前だから……」


 今から買い直すにも、そんな超レアな物がどこで売っているのやら。

 スマホを取り出して調べてみると、やはりどこも完売でした。


「はぁ……大失敗です」


「元気だして、ジェル。――そうだ。ジェルの錬金術でDXをDXⅡに改造できないかな?」


「錬金術で、ですか?」


「うん、ほら。同じロボットだから基本の形は同じだもん。細かいパーツが違うだけだから錬金術で改造すればDXⅡになると思うんだ!」


 錬金術は物の形を変えることができます。

 ワタクシは今までにもそれで壁を補修したり、魔女のほうきを改造したりもしてきました。

 同じ要領で、ロボットを改造することは可能です。

 しかし――


「うーん、修復ならまだしも、新しく造形するのは苦手なんですよねぇ……」


「でもきっとアレク兄ちゃん喜ぶと思うよ?」


 上手く改造できる自信はありませんでしたが、アレクの喜ぶ姿は見たい気がします。


「しょうがないですねぇ」


 ワタクシは少し渋りながらもロボットの改造に着手したのでした。


「えっと……まずDXとDXⅡの違いを把握しないといけませんね」


 スマホ画像を検索してみると、頭の形が違うようです。


「ちょっと尖ってる感じだよね」


「なるほど。とりあえずこうですかね……えぃっ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る