第43話:最期の願い

 そして翌朝。アレクの部屋に行くと、彼はベッドに横になっていました。


「具合はどうですか?」


「あ、うん……あんまり良くねぇなぁ」


 顔色は良さそうだし、見た目は健康そのものという感じなんですが、本人が良くないというからにはそうなのでしょう。


「そういえばシロに連絡したんですが、今日お見舞いにきてくれるそうですよ」


 そう何気なくアレクに友人の来訪を伝えると、彼は急に咳き込んでしまいました。


「マジかよ……ゲホッゲホッ!」


「大丈夫ですか、アレク! すぐに薬と水を持ってきますから……!」


「ジェル、俺はもうダメだ……」


「何を弱気なことを!」


「……パン男ロボDX追加装甲同梱スペシャル限定版が今すぐ欲しいなぁ、それがあれば俺も元気になるんだが」


 ――え、それはさすがに病気と関係無いのではと思うのですが。


 不審に思いアレクを見ると、彼は真剣な顔でワタクシを説得し始めました。


「いや、こういう時は気力が肝心だろう? 俺、ロボがあったら病気治るかもしれない」


「え、でも……」


「ジェルだって、あの時兄の言うことを聞いてロボを買っておけば……って後悔したくないだろ?」


「えぇっ……⁉」


「あぁ、目の前が急に暗くなった……! もうロボしか打つ手は無い! ロボこそが特効薬に違いない!」


「――ちょっとアレク! 今すぐ買ってきますから気をしっかりもってください!」


「待てジェル、もう店頭には在庫が無い」


「そんな! ワタクシはどうすれば⁉」


「通販なら在庫がある。今すぐポチれば助かる命がある」


「えっ、そうなんですか?」


 アレクの指示に従ってスマホで通販ページを見たのですが、そのロボットはすごいプレミア価格に跳ね上がっています。


「こ、これは、ぼったくり価格……いや、しかしこれでアレクの病気が治るなら……」


 価格に驚きつつも買うべきか思案していると、店の玄関からドタドタと足音がして氏神のシロがやってきました。


「ねぇ! アレク兄ちゃんが病気ってホント⁉」


「えぇ……普段あんなに元気なアレクが寝込んでしまって……ただの風邪だと思ったのですが……もう自分はダメだと……」


「えぇ⁉……ホントに?」


「はい……不老不死のワタクシ達にそんなこと有り得ないはずですが……でも、もしアレクが居なくなったらと思うとワタクシは……ワタクシは……」


「ジェル、落ち着いて。僕がちょっと見てみるから」


 ワタクシは少し涙ぐみながらシロをアレクの部屋に案内して、彼と対面させました。

 アレクは布団をしっかりと被ってぐったりと横になっています。


「アレク兄ちゃん、僕だよ? シロだよ? わかるかい?」


「……シロ。見舞いに来てくれたのか」


「うん。アレク兄ちゃんが重病人になったって聞いてね」


「え……あ、あぁ」


 シロはしばらく黙ってアレクを見つめていましたが、軽く息を吐くとワタクシに向かって奇妙なことを言いました。


「――ねぇ、ジェル。白ネギはあるかい?」


「え、白ネギって野菜のですか? えぇ、冷蔵庫にありますが」


「じゃ、急いで持ってきて。なるべく太くて長いので頼むよ」


 アレクが病気で大変な時に、シロはそんな物でいったい何をするつもりなんでしょう。

 不思議に思いながらも、キッチンから太くて長い白ネギを持ってきてシロに手渡しました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る