あとがき



【あとがき】



 最後までお付き合い下さいまして、本当にありがとうございました。紫乃森統子でございます。


 さて、「散華」と題した本作ですが、戊辰戦争が舞台となっています。

 主人公は岡山篤次郎。

 知る人ぞ知る、二本松少年隊の一人です。

 いつもはキャラクターとか思いっきり創ってしまうんですが、今作は登場人物も展開もおよそ史料の通りになっています。


 ……というのも、実は本作、二本松少年隊顕彰を行っておられる団体様より「子どもから大人まで、みんなが興味を持つ切っ掛けになるようなお話を」とご依頼頂いて新たに書きおろした作品です。

 いきなり低年齢層向けの原稿が書けず、まずは普通に小説にしよう! と思って書いた「原案」が本作にあたります。

 ご依頼元の二本松青年会議所様へは、本作を元に小中学生向けに修正した「改訂版」、さらに顕彰イベント用に幼児にも聞かせられるよう編集した「再改訂版」の二種を提供させて頂きました。


 そんなわけで、今作ではキャラや展開を「勝手に創れなかった」とも言えます。

 創作を全く加えずに書くには些か史料が乏しく、四苦八苦した部分もありますが、私自身にとっても非常に良い経験になりました。

 どちらかと言うと、少年隊士よりも大人の藩士たちのほうに惹かれがちな私ですが、篤次郎を書くにあたって改めて少年隊士を中心に史料を見直しました。

 細かく見て行くと、隊士それぞれにそれぞれの背景があり、そこからそれぞれに異なる思いが窺え、正直誰を主人公にするかで迷ったんですが、「母親とのエピソード」「大壇口の戦い」「隊長・銃太郎との関係」「敵将とのエピソード」「開戦から落城、本人の戦死までの時系列」の点を考慮して、結果すべて揃った篤次郎を主人公に決めました。

 ですが、恐らく誰の視点で描くかによって、異なるストーリーが出来上がるだろうとも思います。


 当然ながら、本作に登場する人物はすべて実在した人物で、物語そのものも過去に実際あったことです。


 ただし、落城の時刻は本作中では「正午を前に」としていますが、これには諸説ありまして、他に「午後二時頃」であったとする説や「午前十時頃」という説も残っています。……が、まあ余談ですが午前十時はちょっと考え難いんじゃないかと個人的には思います。


 退却時に銃太郎の首級を持ったのは「篤次郎と衛守」という説と「篤次郎と成田虎治」、はたまた「衛守と成田才次郎」だとする説と、様々な説があり、今回は「篤次郎と衛守説」を取り入れました。


 また、篤次郎を看護し、反感状を贈った土佐藩士を「広田弘道」と作中に記しましたが、これについては「反感状を贈ったのは広田弘道という人らしい」という伝聞が残るのみですので、贈り主が広田さんであるという確証はありません。

 ですが、敵将の名を一人も挙げないというのは個人的にちょっと引っ掛かるところがあったので、あえて明記しました。


 少年隊士含め二本松藩士の最期を戦後に語り残しているのは西軍側の人物である場合が多く、かつて敵であった彼らが語らなければ、誰にも知られないまま埋もれていたであろう人物伝が多数存在します。

 篤次郎の場合は土佐の隊長さん(他に薩摩兵も懸命に看護していたそうです)でしたが、薩摩・長州など藩の別を問わず、多くの人が回顧談を残してくれています。

 現代の二本松市に暮らしていても、薩長はじめ西軍への禍根が拍子抜けするほどに無いと感じるのは、そうした経緯もあってのことなのでしょう。


『うつ人もうたるる人もあわれなり、ともにみくにの民と思へば』


 西軍大将・野津道貫の詠んだこの歌は、まさに二本松藩における戊辰戦争の代名詞とも言えるのではないかと思います。



 拙い本作ではありますが、時代の黎明を前に大義の為に殉じた二本松藩士たちの思いが、そして篤次郎たち少年隊士の直向きな生涯が、より多くの方の心に留まることを願って。



平成二十四年十一月五日

紫乃森 統子


 ※本作参考・「二本松少年隊(紺野庫治/福島中央テレビ)」「武士道 二本松少年隊の記録(紺野庫治/歴史春秋社)」「絵でみる二本松少年隊(二本松史談会/国書刊行会)」ほか


【2022/4 追記】

YouTubeで「二本松少年隊紙芝居」と検索を掛けて頂くと、紙芝居動画をご覧いただけるようになっていますので、お時間ありましたら是非ご視聴頂ければ幸いです。


 

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散華─二本松少年隊・岡山篤次郎─ 紫乃森統子 @shinomoritoko

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