君のヒーローにはなれない

暁弥

プロローグ   花咲く夜に

 ―――ああ、思い出した。

 別に今じゃなくてもいいと思うんだけどなぁ。

 もう少し待っていて欲しかった、せめてこの時だけは。



 私はちらりと隣を見やる。くっきりとした二重瞼。すっと通った鼻筋。桜色の唇。艷やかな栗色の髪。

 いつ見ても綺麗だ。


 「 ? どうしたの?」


 そうやって微笑みかけてくるのは――幼馴染みの大山静空おおやましずく


 「んーっと、………いや、なんでもないよ」

 「そう?」


 貴女に見惚れていました。なんて、口が裂けても言えないし。



 よし、一旦頭の中を整理しよう。

 私――笹木叶多ささきかなたは今、大山静空と毎年訪れている花火大会に来ている。    

 それで、この土手に座って花火を眺めているわけだ。

 


 二人は幼い頃からずっと一緒。それこそ、毎日お互いの家を行き来していたくらいだ。今は流石に毎日とまではいかないけれど。

  

 

 昔はオドオドしてて、泣き虫で、年上のくせに私の背中にピッタリと張り付いていたのに、今の彼女はとても大人びていて泣き顔なんて何年も見ていない。



 私は徐々に静空に恋心を抱くようになっていき。

 今日、この咲き乱れる花火の下で静空に告白するつもりだった。

 それなのに…………



 私はつくづく運がない。

 ―――よりにもよってこんな重要なことを、今思い出してしまうんだから。


 

 ここが前世でプレイしていた乙女ゲー厶『花咲く夜に』の世界で。

 隣に座っている彼女が主人公である『大山静空』で。

 私はそんな主人公をサポートする親友兼、幼馴染みの『笹木叶多』だってこと。



 私は最初から勝ち目のない恋をしていたってことだ。

 はは、笑いたくても笑えない。

 きっと今、私は酷い顔をしているはずだ。    

 


 静空に顔を見られないように注意しながら空を見上げた。

 赤、青、黃、様々な色が空に咲く。

 まるで私のことなど気にも止めていないように美しく、美しく、咲いている。 



 「綺麗だね」 



 静空が小さく呟いた。



 うん、綺麗だよ。

 むかつくくらい、痛いくらいに綺麗だ。



 私は臆病だから。どうしょうもない奴だから。

 報われないってわかっていて告白なんて、出来ない。


 

 来年の花火大会、彼女の隣に座っているのは私ではないだろう。



 きっともうすぐ彼女に相応しいヒーローが現れる。


 

 ―――こんな私じゃ、君のヒーローにはなれない。

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