「得ることができた世界」

取り調べは難航した。

加害者曰く、自分はなにも悪くない

らしい。しかし、近くの防犯カメラを見る限りでは、被害者に落ち度はなく。

警部は頭を悩ませていた。


時計を見ると、11時半を過ぎていた。

そういえば、冷蔵庫には食べるものがあまり入っていなかった気がする。

そう思った僕は、近所のコンビニへお昼を買いに行った。


「あぁ。このままじゃ上司に怒られる」

車のデジタル時計を見ながらそうひとりごちた。道はそんなに混んでいなかったので、

スムーズに進むことができた。

このまま行けば、あと二十分ほどで着くだろう。急いでいるとアクセルを踏み込みやすいというので、視線を時計からメーターへと移してみたが、大丈夫だった。

道路の規定速度である時速五十kmを超えていなかった。


交差点を渡れば、すぐコンビニへいける。

ただあそこの信号って長いんだよな。

なるべくなら引っ掛からずに行きたい。

さっき冷蔵庫を見たが、本当になにもなかった。料理するのも面倒なので、弁当にしよう。玄関のドアを開けて、捨てられずに放置されたゴミ袋だらけの部屋を出た。

郵便受けにはたっぷり入っていたが、きっと光熱費の請求だろう。そんなものを払っていたら、買えるものも買えなくなってしまう。

お腹が空いてきた。

早く弁当を買ってこなければ......


コンビニの看板が見えた。

もうあと少しまで来た。

もう近いが、落ち着かなければ。

ここで事故でも起こしたら、確実に間に合わなくなってしまう。


信号についた。

点滅していたが、急いでいたのでそのまま行った。

そして。

身体の左側に鈍い痛みを感じた。


急に人が飛び出してきた。

止まれなかったので、ぶつかってしまった。

あぁ。仕事に遅れてしまう。

仕事が......

お金が......


翌日、またしても11時頃に起きてしまった。

なにかに引かれるように、交差点へと来ていた。

背中側から強く風が吹いている。

遠くからトラックが近付いてくるのが、見えた。

血なのかなんなのかわからない染みを見ていると、ふと思い立った。

なんで僕は事故に遭ったのだろうか。

もしかしたら此処が事故の現場なのかも知れない。

だけどそんなことはない気もする。

事故の相手もよく知らないし、起きた状況もよく知らない。

事故について知らなさすぎる。

なんでなんだろう。

覚えていないことも多いし、

覚えていることは少ない。


流れる風に僕は身を任せた。

すると、身体の左側に鈍い痛みを感じた。

そして......

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

こころの在処 光之空 @light-hikari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る