第2話 朝の時間
階段を降りて一階に行くと、父さんと母さんが先に朝食を食べていた。
「ほらけいくん、早く食べちゃいなさい。」
俺は頷いて席に着いた。
「いただきます。」
朝からいただきますっていう高校生がこの世にどれだけいるだろうか。まあ、言った方がいいのは確かだが、朝の眠気の中、食事のあいさつにまで気を遣えるような、余裕のある人は現代の日本には少ないのかもしれない。特に社会人は。俺の場合、余裕があるというよりも、幼い頃、両親にそうしつけられて、それを何も考えず、ただ脳死で守っているだけなのだ。いうなれば、考えることを放棄した人間なのだ。それに、ルールと違ってマナーは守っておいて、損をすることはない。
「どうしたのけいくん?」
また自分の世界に入って考え込んでいるであろう息子に母は声をかける。
「いや、ちょっと考え事してた。ご馳走様。」
「あらそう、変わった子ね。」
俺はさっき降りてきた階段を逆流し、自分の部屋に戻る。手際よく制服に着替える。半年の間、何回も着替えたので、さすがに手慣れてる。
「いってきまーす。」
階段を降りてそう言うと、母さんが玄関まで送りにきてくれる。小学校の時から学校がある日は必ず。
「いってらっしゃい。間に合う?」
「うーん、ギリかな。」
今日は考え事をして、朝からゆっくりしすぎたな。
「けいー、遅刻するなよぉー。うちの息子はマイペースだなぁー。まったく誰に似たんだか。」
ソファから父さんが語尾を伸ばしがちな適当な話し方でそういってくる。まったくこの人の話し方は、、、会社の上司にもこの話し方なのだろうか。今度、父さんのカバンに盗聴器でも仕込んでおこうか。まあ、どうせ会社ではハキハキ喋って、上司はしっかり立てて、裏では部下に上司の愚痴を言っているのだろう。そして、その部下は同僚に父さんの愚痴を吐いているに違いない。きっとそうだ。そんなことよりも、このマイペースな息子が一体誰に似たのか、教えてやろう。
「心配しなくても大丈夫だよ。ギリ間に合う。それより父さん、うちの時計はリビングの時計は10分遅れてるんだよ。いつもは腕時計してるから気づかなかったろうけど。そういえば、腕時計は?」
「え?やっべぇー。腕時計壊れたんだよ。昨日の夜酔って帰ってきて、朝見たら壊れてた。てか、愛しき息子よ。そう言うことははやくいってくれぇー。」
「ふふ、そういえばそうだったわね。ごめんなさいあなた。」
腕時計のない父さんにリビングの時計の件を伝え忘れていた母さんが、僕達の会話を聞いて微笑みながら謝る。
「大丈夫だよ。優秀な息子が教えてくれたおかげでギリ間に合いそうだ。」
なんだ、ちゃんとした話し方ができるんじゃないか。それにしても、俺の両親は本当に仲がいいな。夫婦喧嘩とかしたことあるんだろうか。今度聞いてみよう。
さて、そろそろ出ないとやばいな。
「じゃあ、いってきまーす。」
「はい、いってらっしゃーい。」
いつも通り母さんの声は僕を学校へと送り出す。
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