第5話 バケモノ認定。

「あれ?」

 クリスの顔が歪む。

 俺の魔力で何かあったのだろうか?


「どうかしたのか?」

 と俺が聞くと、

「あなたバケモノ?」

 クリスが急に訳の分からないことを俺に言った。

「バケモノ認定されても、何もわからんよ。

 だってこの世界に来て一時間経ってないんだぞ?

 ステータスなんてこと知るはずないだろ?」


 本当にわからん。


「この世界?」

 クリスは不思議そうに俺を見た。


 説明しておかねばなるまい。


「ああ、俺この世界の住人じゃない。

 信用してもらうしかないが、向こうの世界で事故にあって飛ばされてきたんだ。

 ほらこんな服見たことある?」

 俺のスーツの襟を持ちアピールをする。

「確かに珍しい服だとは思ったけど……魔法使いって奇抜な服とか切るらしいからそんなもんかなって……」


 クリスにスーツが「奇抜な服」だと思われて「そんなもん」で片づけられてしまった。


「だ-かーら、俺はこの世界のことを全然知らないんだ。

 ステータスなんて本当にわからない。

 だから、正直、クリスに色々教えてもらえるとありがたい」

 俺はクリスに頭を下げた。


 一般常識も何も知らないのだから正直必死だ。


 クリスは少し考え、

「わかったわ、私が助けてあげる。

 助けてもらった恩返しもしたいしね。

 でも、この格好じゃちょっと……」

 確かにクリスの服装は奴隷用の汚れた貫頭衣を一枚着ているだけである。

 ちょっと動くと上にはピンク色のポッチンが、下からは金色の茂みがチラチラと見えるのだ。

「クリス、確かにこれじゃ男に襲ってくれるって言っているようなもんだね。

 ゴブリンが襲うのも頷ける」

 俺はウンウンと頷いていた。

「そう……エルフの奴隷なんて男の慰み者になってもおかしくはないと思う。

 だから、あなたが私を襲っても文句は言えないの」

 そう言ってため息をつくと、

「なんでかしら?

 マサヨシは襲わない?」

 答えが聞きたいのかクリスは俺を見た。

「そんなに襲って欲しいか?」

「そんなつもりはないけども……」

 クリスの言葉が小さくなる。

「あのな、クリスを襲うつもりが無い。

 俺はヘタレでな、妻に悪いと思ったら襲えない。

 それにクリスが綺麗すぎて触れないってのも一つあるな」

 俺がそう言うと、

「え? 結婚してるの?」

 とクリスは驚いた顔をした。


 そんなに驚くこと?

 メタボは結婚しちゃいけないのか?


「えーっと、正確には結婚してた」

 察しがいいのだろう、意味に気付いたクリスは、

「ごめん」

 と言って、シュンと元気がなくなる。

「ああ、別に気にしなくてもいいよ。

 今更なんでね」

 俺はクリスに言っておいた。


 正直、気にしていないというのは嘘だ。

 でなければクリスを襲っていると思う。

 それほどクリスは綺麗だった。

 死別した妻への後悔と、日本人のモラルがクリスを襲わないように導いたのだろう。


 うーん、妙な雰囲気になった。

 話を変えるために……っと、馬車の周りに何か残っていないかな?

 

 気分を変えるために馬車の方へ行って馬車を覗いてみると、荷台にはいくらか荷物。

 漁ってみると袋がある。


 中身は女性用だろう、胸の膨らみがある白いレザーアーマー、装飾されたレイピア、あとは奥に服と下着。

 ふむ、馬車には奴隷商人とクリスしか居なかったはず……奴隷商人は男性だから、女性の持ち物は当然……。


「これって、クリスの?」

 ニヤリと笑ってパンツらしき下着を広げてクリスに聞いてみた。

 ちょっとしたイタズラ。

「バカっ!!」

 クリスは顔を赤くして、服の入った袋とパンツらしき下着を強引にむしり取ると馬車の陰に隠れる。

 お着替えらしい。


 しばらくすると、そこには白いレザーアーマーを纏った冒険者……クリスが現れた。

「これが本当の私。

 これありがと」

 そう言って羽織っていた上着を差し出す。

 白い服とデニム系のパンツ。

 そして白いレザーアーマー。

 白銀のレイピア、白で統一された装備を付けたクリスは輝いていた。

「それ、すっごく似合ってるね。

 その格好のほうがクリスらしそうだ」

 正直な感想を言う俺。

「バッ、バカ。

 私は冒険者なんだから当たり前でしょ?

 そんなに褒められたら、恥ずかしいじゃない!」

 クリスの顔が真っ赤になり、モジモジと体を揺する。


 なかなかモジモジから戻らなかったがクリスだが、しばらくすると、

「やっぱり、あなた強い?」

 気になるのかもう一度聞いてくる。 

「うーん、何度聞かれてもわからない。

 どうかしたか?」

 逆に聞き返した。

「マサヨシ、魔物や人と隷属の契約する場合、契約される者、契約する者のどちらか強い方に能力が引き上げられるの。

 前の奴隷商人の時、私は強くならなかったけど、あなたとの契約に移行した瞬間凄い力が湧いてきた気がしたの。

 ちょっとステータス見てみるわね」

 クリスは何か声を出そうとしたが、

「ステータスって見えるの?」

 俺の質問で遮ってしまったようだ。

「冒険者ギルドのカードにはその冒険者の能力を表示できる機能があるの。

 数値じゃなくてランクだけどね。

 ちょっと失礼、ステータスオープン!」

 そう言うと、クリスの前にホログラムのようなプレートが現れる。

 それを見たクリスが目を見開いていた。


 ん?

 クリスが焦っている?


「力がAからSSに上がってる、

 えっ他も軒並み二段階上昇?」


 後で聞いたのだが、ステータス画面にはHP・MP・STR・INT・AGI・DEX・VITが表示される。

 HPはその人の生命力、MPは魔力、STRは物理攻撃力、INTは魔法攻撃力と魔法防御力あと知識も、AGIは素早さ、DEXは器用さ、VITは物理防御力を表すらしい。

 STR・INT・AGI・VITのランクはF~EXまであるらしく、段階としては、F→E→D→C→B→A→S→SS→SSS→EXと強くなる。

 Eランクは一般人程度、Aランクが一万人に一人、Sランクが十万人に一人、それ以降は十倍毎に一人程度という事だ。


 クリスのSTRはSS、百万人に一人のレアな人になったらしい……良いのか悪いのか……。

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