第三百二十四話 最後の門番
◆二つの神話を跨ぐ大いなる戦と彼等の因縁について
先に断っておくが、これはあくまでも『ダンマギ』内における
どこかで聞き覚えのあるプロットや展開が飛び出すかもしれないが、どうか他人の空似という事でひとつ穏便に見逃して欲しい。
俺達人間が住む基軸世界が出来上がる前の話だ。
この世界を纏めあげる十二の
まぁ揉めていたといってもそれらの大概は今で言う創作物のコンテストのような健康で文化的な競い合いであり、中には邪神のように他のアルテマの神話世界の創作に分け隔てなく協力する温厚な(※1)超神もいたそうなので、実際のところは、そんなに血生臭くはなかったそうだ。
しかしそれはあくまで「大概は」という但し書きがついた上での話である。
例外はあった。それも暴力的で一方的な例外だ。
神話と神話同士の衝突。
人間の尺度では測り知れない規模と範囲の大戦争。
俗に言うアーディティヤ神群と護法神話の戦いの発端は、二柱の超神のマウント合戦より端を発したそうだ。
「我々も知性体である以上、相性の良し悪しというものがあります。しかも各々が
「
「彼女は例外です。私の次くらい(※2)に清らかで真っすぐだったので、みんなから好かれておりました」
例外的な十二番目を除き、皆が自分が正しくて最強だと思っているギスギスサークル。
中でも
「価値観が壊滅的に合わなかったんですよ。分かりやすいように創作事で例えるならば三番目は『どれだけ売れたかが最も公平で平等な価値基準であると信じて止まない絶対商業主義者』で、十番目が『創作家は、売り上げやしがらみや流行に眩むことなく自分が最も素晴らしいと思うモノだけを創るべきだというスタンスの芸術至上主義者』。……そんな二人が日夜呟き投稿サイトで大量の信者を抱えながら“
「なにそれ地獄じゃん」
「はい。地獄でした」
互いが互いを許せぬ不倶戴天の敵。
対極の価値観を持つ二つの超神。これだけでもキングオブ迷惑だというのに更に彼等は信じられない事に
「彼らは何ともハタ迷惑な事に同じ
「地獄じゃん」
「はい。地獄でした」
互いの主義信条が真逆の二人が同じ女性を愛してしまった。
ここまでの条件が整えば、そりゃあ戦争の十個や百個は間違いないでしょうよ。
「マスター達が“アーディティヤ神群と護法神話の戦い”と称する戦いの発端も、そもそもを辿れば、いつもの彼等の
ただしその時は、本人同士ではなく自分達が創り上げた世界同士をぶつけ合う事で自分達の優劣を競いあったらしい。
「二人ともそういう時期だったのです。自分の考えたキャラクターはどんな創作物のキャラクターよりも強いだとか、お気に入りのキャラクターに“
自分こそが最強。ぼくのかんがえたさいきょうのきゃらくたーこそが正義。
そんな世界を憎いアンチクショウも描いている。しかもどうだ! 気になるあの子もみてるじゃないか!
「私がいつものように後始末係として呼ばれた時には、それはもう酷い有り様でした」
不動明王が振るった
今の俺達では想像すら出来ないクソデカ神話大戦。
元を辿れば超神同士の下らないいざこざに過ぎなかった二つの神話の衝突は、しかし結論として両世界に覆す事の出来ない
『降東』の明王と三十五層の
破壊神シヴァ。
四季蓮華が従える三柱の真神が一柱にして、全ての破壊神の頂点に立つ者。
かの大戦においても彼は目覚ましい活躍を遂げた。
破壊と超越を司る三番目が、自身の神話に己の摂理を注いだ最強の破壊神である。
第三の眼より放たれた殲滅光は三千世界の果てまで焼き尽くし、千手千足より繰り出される破壊と超越の崩界術式は、無数の並行世界を巻き込みながら相手方の世界を尽く打ち壊した。
三番目が創り上げた空前絶後の最高傑作として、
彼は最も誉れ高き戦果をあげ、
同時に――――
「彼の神は『降東』の明王に大切なものを奪われました。己の神格の一部と妻の尊厳、そして破壊の神の矜持を」
――――奪われたのである。
◆皇都“龍心”禁域ダンジョン・肆の律『降東』・第三十五層
ダンマギのお約束として、ダンジョンに出現する最初の中ボスと最後の中ボス、そして最終階層守護者との間に信じられないくらいの戦力格差が存在するというものがある。
『天城』を例に出せば①最初のボスが斧を振り回すだけの
それだけの差が、いやそれ以上の差が『降東』の中ボス達の間にも存在する。
第五層の階層守護者を務めていた東の四天王『持国天』
攻略時においては張り切り過ぎた猫師匠のにくきゅうパンチによって仏の世界にお帰りになられた彼だが、その法力は『ミネルヴァ』以外のオリュンポス十二偽神から勝ちを拾える程度にはイカれていた。
そして何度も言うように奴こそが『降東』におけるミノタウロス枠だ。
1:3:3:1=『四天王』:『十二神将』:『十二天』:『明王』
俺達は東の四天王を倒し、三柱の神将を鎮め、日天を破り、とうとう
三十五層。七番目を務める大トリ。
『…………』
それこそが
青緑の肌に三又の槍を構えた長身痩躯の天神が、烈日の戦場に立つ。
遮ぎるものはなにもなく、赤い種火が僅かに輝く灰燼の大地。
背の丈は二メートル台後半。腰回りや胸部など最低限の急所めいた場所に護法神の鎧を纏っているが、かなりの軽装だ。
眼は二つ。手脚も二つずつ。
長い黒髪を金色の櫛で結び、全てを射殺すような鋭い眼光で百メートル先の俺達を睨めつける最後の十二天。
『
精神の宮殿から、ワケ知り顔で
赤シャツ野郎の物言いは極めて不遜だが、この世界の
その
破壊神シヴァ。アーディティヤ神群きっての
真神。それも至高の域に在るシヴァ神が準真神級の神格に敗れるなど、本来であれば何度天地がひっくり返ろうともあり得ない事である。
しかし神話世界最大のジャイアント・キリングはある二つの理由から現実となった。
一つはそれが完全なる一対一の決闘ではなく、壮絶な継戦の果ての激突であったという事。
特にシヴァ側は、不動明王が放つ
十番目の超神である勝利と闘争の武神は、全ての武具と武術の始祖であり、全
彼と『無窮覇龍』の合作とされる
一閃が幾万の多元宇宙を断ち切る言語道断の切れ味を持つ究極の刃を、護法神話最強の明王である不動神が振るった。
純粋な出力という観点でいえば三番目の理の体現者であるシヴァ神に分があるが、こと武器の性能と武術の精巧さにおいて護法神話の神格に並び立つ者などありはしない。
その差が趨勢を分けた。
究極の武器と至高の戦技の掛け合わせによる多次元宇宙滅却斬撃の直撃を受けたシヴァ神は妻のパールヴァティの助力により辛くも不動明王の追撃を逃れたものの、休息の為に訪れた三千世界の果てで“彼”に出会ってしまったのだ。
つまりその時のシヴァは万全ではなかったのさ。
無視できない手傷を負った状態での決闘。
まぁ、それでも並みの真神級レベルの力は持っていたそうだし、三番目の直系らしく超越の理――遥のワクワクパワーのすごい版を想像してくれ――に愛された彼は十分に偉大なる神であった。
『だが、奴は負けた。いや
それこそが二つ目の理由。
東の明王の最も特異なる異常性。
空前絶後のジャイアントキリング性能。
幾度敵が己の限界を越えようとも、何度自らの肉体が壊滅の憂き目に会おうとも、その明王は止まらなかった。
磨け上げた術技をひたすら刻み、三番目と十番目すら瞠目した進化と真価を発揮して、そうして、
『シヴァは敗れた。敗れた上に目の前で嫁を踏みつけられて明王に赦しを乞うた』
想像する。目の前で遥が強大な敵に踏みつけられる光景を。
自分が敗れたばかりに愛する人の命を危険に晒し、泣こうが喚こうが踏まれ続ける悪夢の時間を。
――――シヴァ神とパールヴァティー神妃は、怒れる明王の足元に跪いた。
『愛する女を踏みつけている相手に泣きながら赦しを乞うってのは一体どんな気持ちなんだろうな』
俺ならきっと末代まで祟る。
テュポ吉のやろうもそういうタイプだろう。
戦いに敗れ、愛する女を傷つけられ、まるで首級を飾られるようにその神格を剥がされた。
大黒天。大自在天。そして
シヴァ神より剥がされた神性の一部が別の異神格として護法神話に取り込まれた姿。
中でも
何せかつての宿敵と同じ
「それじゃあみんな、ここは手筈通り……」
そんなこのダンジョンに存在する唯一にして最大のイベントキャラクタ―と俺は今から
「俺に戦わせてくれ」
―――――――――――――――――――――――
注釈(訳者:ゴリケル)
(※1)ただしこれはあくまで邪神の自称である。奴が話を盛っている可能性も同時に考慮するべきだろう。
(※2)当然ながら邪神がほざいているだけである。
ただし人間の価値観でみれば大体酷い神様ばかりなので、相対的にみれば邪神もかなりマシな部類である事もまた事実。なんだかんだでベスト3にはギリギリ入るんじゃないかしら。
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