第三百十九話 破壊神
◆続・俺とオレとおれ
「オレ達を」
「強く!?」
黒一色に包まれた精神世界に動揺と衝撃が走る。
今の遥よりも強く――――基準値の対象が無限にインフレし続けているお馬鹿猫ちゃんのせいでイマイチすごさが伝わりづらい文言であるが、しかし奴の言った事を鵜呑みにするのであればそれは今の俺達にとって抗いようのない魅力的な提案であった。
「(なぁ、
「(あぁ、
加えて今の遥を倒せるくらいという事は、レヴィアちゃんの防御を突破できる攻撃力を得るという意味合いも強い。
そんな力が手に入れば勿論、心強い。
しかし本当なのだろうか。本物の真神テュポーンならいざ知らず、こいつは所詮「自分の事をテュポーンだと思い込んでいる清水凶一郎」なのだ。
「いや、その揶揄は語弊があるぜ、“猫好き”」
分の事をテュポーンだと思い込んでいる清水凶一郎がなにかほざいた。
「<
「失礼な」
「チ○コならお前よりでかいぞ」
清水凶一郎は、確かにクソ雑魚だが、それはギャルゲーのキャラとして見た場合の話だ。
エロゲーキャラとしての器なら軽くTier GOD
世界トップのポルノ俳優として名を馳せているオークキングのヘブンズ後藤さんの公式プロフィールよりも一回りはデカい。
要するにモノが違うってことさ、クソッタレ!
「……話を戻すぞ、馬鹿二人」
「オーケー」
「オーケー」
テュポーンは言った。
「お前達は<外来天敵>を使いこなしているつもりなんだろうが、おれから見ればまだ甘い。説明書に書いてある事を読んで、ゲーム知識由来のやり方で
「ソレのなにがいけねぇんだよ」
鼻息を荒げながらテュポーンに反論する凶一郎。
オレの言い分は正しい。少なくとも俺にはそう思えた。
《天敵粒子》生成からの、《赤嵐》、《物質構築》、《粒子操作》、固有術式である【壱式】、【弐式】、そして一応の最終到達点としての【終式】まで修めた上で――いや、【終式】は条件が無理過ぎて模擬戦ですら成功した事がないのだが、アレは修行や技術でどうにかなる条件ではないので、一応ここに乗せておく――時の女神の術式を絡めた俺達のオリジナル技にまで昇華させたのだ。
コレを「上手くやっていない」というのは流石に上から目線が過ぎるだろう。
そりゃあ、原作の真神テュポーンと比べたら“世界”を会得していない分だけ、劣るけどさ。
「そう。そこなんだよ」
ワインレッドのホスト野郎が俺達を交互に指した。
「お前達は、超神ヒミングレーヴァ・アルビオンの契約者という絶対的な
アルの術式はどんな相手でも絶対に効く。
遥でも、旦那でも、ハーロット陛下でも、四季さんでさえ、時の女神の術式の前では皆等しく無力だ。
「なのにお前達はどうして、
口がすぼんだ。
何故かは分からないが、ものすごく罪悪感めいた申し訳なさを感じる。
「『帝釈天』にみんなの力を合わせて勝って大勝利だぁ? いや、そりゃあ百歩譲って敢えてやったってんならアリだぜ? チームの士気を上げ、エース級以外のメンバーにも経験を積ませて強くなる。あぁ、大いに結構だとも。全員のレベルを上げるってやり方それ自体を否定するつもりはない。けどよ……」
オレ君もしゅんとうなだれていた。
自分でも思うところがあったのだろう。
「お前ら、アレ本気でやってただろ? 仲間を成長させる為じゃなくて、それが一番勝ちやすいと思ったからあのフォーメーションを組んだんだろ?」
そうだ。『雷零』の法則と亜雷速の敏捷性を持つ『帝釈天』の動きを俺だけでは捉えられないから、みんなの力を頼った。
勿論、結果だけ見ればあの戦いはケチのつけようのない大勝利だった。
チームの連携が高まり、花音さんやソフィさんが新しい術式を覚え、俺自身も今後の指針となるパーティー構築論の
だからあの『帝釈天』戦は正しかったのだ。
……正しかったのだが、しかしその一方で、
「なぁ、清水凶一郎。お前はいつまで中途半端な位置に留まっているつもりだ? 最強の精霊を有し、〈
耳が痛いとは、まさにこの事だった。
「俺達だって必死にやってるんだ」という弱り文句を寸前のところで押し留める。
でもさ、本当に限界なんだよ。
ここが今の清水凶一郎のいっぱいいっぱいなんだ。
「いいや、違うね。お前達は
ワインレッドの長髪野郎がすかした素振りで指を鳴らす。
次の瞬間、俺達の
赤き閃光。
端正な顔立ちに、閉じた双眸。体躯は俺達とさして変わらず、僅かに着崩した白の法衣が実に面向不背といった出で立ちで趣に富んでいる。
何もない空間に突如として現れた白色長髪の貴人。
それは、
『雷禍ノ試練、越エテみヨ』
それは『帝釈天』だった。
俺達の記憶を寄る辺として再現された幻想の帝釈天。
精神の中だからこそ可能な
「良く見ておけよ、
『帝釈天』の肉体が赤き雷の輝きに包まれていく。
『帝釈天』、雷零の理を身に纏いし
第一雷霆速度以下の速さで放たれたあらゆる事象に対する回避式適応能力「絶対回避」と第一雷霆速度に達していない事象及び物理的実体に対し、『帝釈天』側は攻撃を必ず当たる権利を有する「絶対必中」の二つを有する
第一雷霆速度に達していない相手に対して無類の絶対性を誇るこの強敵を前にして、俺個人で打倒する事はほぼ不可能である。
未来視で予測を立て、天敵粒子と【四次元防御】のコンボで結界を築き上げた後、<骸龍器>やら【再誕】やら【零の否定者】やらをフル投入してようやくワンチャンといったところか。
どの道“個人型”の法則使いである『帝釈天』を“中間型”の法則使いである俺達が単騎で破るのは、難しい。
だからこそ花音さんやソフィさんのバフが必要だった、
「アホか。そりゃあ流石に、おれの力を見くびり過ぎだ馬鹿どもめ」
――――筈なのだが、
「お前達は<外来天敵>という器を根本から勘違いしている」
『帝釈天』の姿が消える。
亜雷速の速攻、「絶対回避」と「絶対必中」の二重特性者は、テュポーンに赤粒子の一粒すら出させぬまま戦場を駆け抜け、
「おれ達は、破壊神なんだよ」
そしてその剣のように鋭い手刀を掴まれた。
幻想の帝釈天が瞠目する。
俺達も同様に。
テュポーンは、天敵粒子を出していない。
雷零の法則を突破したわけでもない。
ただ掴んだ。
普通に掴んだ。
あり得ない事だ。
理屈に合わない。
「鳥が空を飛ぶように、魚が水の中で息をするように」
『帝釈天』が片側の手を使い抜き手を放った。
雷光が煌めき、衝撃波を伴った突風が吹き荒れる。
亜雷速。俺達よりもはるかに速い迅雷の神威がテュポーンの急所を抉ろうとした次の瞬間、
「おれ達にも、
『帝釈天』が爆ぜた。
何百、いやもしかしたら千を越える単位でバラバラになった貴人の残骸。
ぐちゃぐちゃに、ボロボロに、幻想の体液を辺り周辺に撒き散らしながら最期を迎えた真神インドラの異神格。
まるで赤子の手を捻るような簡便さで亜神級最上位の実力者を下した怪物は、唖然とする俺達に向かってひらひらと手を振った。
「今見せたのが初歩中の初歩。奴の法則を壊した“形而上の破壊”と奴自身を壊した“形而下の破壊”」
破壊神。
間違った世界の流れを正す為に遣わされし、“世界の終わり”達は、文字通り「世界の何もかもを破壊し尽くす」特別な権能を持つ。
「天敵術式は、あくまでおれ個人の
テュポーンは語る。
「こう見えても割りと平和主義者なんでね、出来る限り穏便に役割をこなせるよう
それがフカシではない事は、彼の出てくる神話が物語っていた。
テュポーンはオリュンポス神話のラスボスだ。
天地を焼き、宇宙を揺らし、一度はゼウスを含めたオリュンポス神達を他次元に追い出す事に成功するものの、最終的には破れ去り
彼は、誰一人として十二神を殺めていない。
ゼウスすら敵わず、一度は自身の腱を奪われて敗走したものの、
ゼウスはオリュンポス神話内で最も強く偉大な全能神だ。
彼さえ封じれば後はどうとでもなる位にその力は圧倒的で、他の追随を許さず、文句なしのナンバーワン。
そんな相手を打ち負かしておいて、腱だけそぎ落として逃走を許すなど、絶対に在り得ない。
ましてや十二神全てが生きたまま砂漠の世界に逃げおおせるなど、あまりにも都合がよ過ぎるぜって話なのだ。
原初の天城であるオリュンポス・ディオスがかつて見た「オリュンポス神全滅&テュポーン相討ちエンド」の方がよほど筋が通っているし、現実的だ。
「<外来天敵>には、あの
万象の天敵ではなく、原初のオリュンポスを絶望の淵にたたき落とした純粋なる破壊者としてのテュポーン。
「お前達は飛べない鳥で、泳げない魚だ。自分のコンセプトデザインをまるで理解しようとせず、ネットの解説動画を見ただけで何もかもをしったような気になっていやがる素人さんよ」
それは誘いだった。
見え透いていて、こちらの足元を読んでいる、けれどだからこそ
「お前達に“破壊神”の使い方を教えてやる。ついでにゲームでは披露されなかったテュポーンの戦術と戦略をモノにすれば、間違いなく“あちら側の住人”になれるだろうさ」
抗いようのない程に魅力的な提案だった。
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