第三百十話 日天、後にぽんぽんペイン
◆皇都“龍心”禁域ダンジョン・肆の律『降東』・第二十五層
結局奴等に対する有効牌が確立できないまま、俺達は本日最初の関所である二十五層に辿りついてしまった。
“十三道徳”の強襲、姜子牙の策謀、そしてこれ等に連動する形で時限爆弾化した会津にまつわる諸問題。
ただでさえ『降東』という帰還不能の禁域次元に挑んでいるというのに、ここに来て頭とお腹に優しくない問題が波濤のように押し寄せてきやがるという大不運!
うぅ、お腹が痛い。エリクサーのアンプルを一本消費しようか真剣に悩むレベルでキリキリと胃が痛んで仕方がない。
出来れば一日中、ベッドにこもって遥によしよしとして欲しかった。
だけど、本当に、……本当に残念ながら、そんな贅沢な
迅速なダンジョン攻略、明確な意思決定、そして何よりも重要な諜報員の懐柔。
元よりタイトなスケジュールだった『降東』の攻略は、ここに来て神速の行軍が求められるリアルタイムアタックとしての性質を帯びたのである。
「そういうわけで、ここからは遊びなしでいかせて貰うぜ」
目の前に広がる景色は、黄金の寺院。
比較的地味な仕上がりとなっていた前半戦とは打って変わり、二十五層のボス部屋は大層豪奢であった。
煌びやかな装飾の施された壁面、広大なる金色の
広さ×幅は共におよそ五百メートル。
赤粒子でギリギリ覆える程度の表面積である。
「OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO――――!」
そんなド派手なフロアを疾風の如く駆け抜ける一騎の戦車の姿があった。
戦車、といっても“彼”の乗るソレは無限軌道のついた火器付き自動装甲車の事ではなく、もっと原始的で、神話的な太陽の車。
金と赤を基調とした灼熱の
大型車程の容積を持つこのイカしたチャリオットの
「《
十二天。皇都禁域ダンジョン後半十五層を守護する十二柱の上位護法神達。
前にも言った通り、禁域の階層守護者には“枠”が存在する。
始まりに四天王、十層から二十層の枠に十二神将、後半の二十五層から三十五層の枠に十二天と呼ばれる上位護法神達が入り、四十層のボスラッシュを経て、最終階層の明王へと至る。
1:3:3:1=『四天王』:『十二神将』:『十二天』:『明王』
俺達は四天王と十二神将の間を突破し、後半の
その初戦を飾る相手『日天』は、読んで字の如くの太陽神である。
燃える戦場、焼ける大気。疾走する紅蓮。
武神としての基礎特性に加え、この日の
スリップダメージを与え、ターン毎に再生し、おまけに『日天』の特性によって
ったく、本当に糞ボスだ。何がクソってこいつがこんな馬鹿みたいな完全復活スキルを持ってるせいで、『明王』も三回蘇るのよ。
『
『
他にも『持国天』や『
――――本当にあの頃のダンマギは狂っていた。
これだけのクソゲーエレクトリカルパレードを「七つで一つのスキル」として併せ持つ明王様。
約三時間にも及ぶ彼との死闘の末に敗れたプレイヤーを待ち構えていたのは“
タイトル画面に戻されてセーブデータをロードしたらダンジョンの入り口に戻されててさ、何と言うか笑ったよ。笑うしかない程クソゲーだった。
あぁ。忌々しい。腹立たしい。少し思い出しただけでもこの有り様だ。
リアルもゲームもクソゲー過ぎて胃腸のキリキリ舞いが止まらない。
「【四次元防御】」
未来視による座標測定と赤粒子による接触を併用した時間停止の術式が、褐色金髪太陽戦車野郎の爆走を引き止める。
秒速数十キロの規格外スピード違反が彫像のように固まった姿を確認した俺は直ちに赤粒子で形成された“赤嵐”で日天の周りを包囲した後、千瞬点滅。
粒子の付着と時間停止の
時間アレルギーによる内部の破損。
加えて、天敵粒子のスタックが加速度的に溜まっていき、奴の命運に大手をかけていく。
「【希望潰えし、無常の果実】」
やがて【
【希望潰えし、無常の果実】、感染した対象に、あらゆる失敗を強要させる絶対蹂躙能力。
<外来天敵>の根幹であり、赤粒子の正体でもあるこのウイルスに罹患した時点で彼の運命は決したのだ。
俺は日天に「生きる事を禁じた」
加えてウダウダと復活されても困るので「蘇る事を禁じた」
崩れ落ちる褐色金髪の戦車神。
<外来天敵>の絶対蹂躙能力により蘇生スキルを禁じられた『日天』は、ただの一度も蘇る事なく、黄金の光塵となって第ニ十五層を退いた。
「(……気のせいか? 奴の動きが妙に遅く感じた気がする)」
ざっくりとした目測だが、『日天』の
これは優に音速の百倍を越えた化け物スペックであり、あの灰の街で戦った“
だというのに、今回はソフィさんの祝福なしで手玉に取る事ができた。
……正直少々遅いとさえ感じたレベルである。
「(心なしか粒子の生成速度も上がってる気がするし、……なんだ、この急激に強くなっていく感覚は?)」
昨日の怪獣バトルに参戦したからか? あるいは、灰の街の連戦と『降東』の戦いを経た事による“
最強達の背中を追いかけるには已然としてスローテンポ気味ではあるものの、ここ数日の「上がり方」は、明かに異常である。
……まだ<骸龍器>すら使ってなかったんだぞ。
空気の焦げつく匂いが薄まっていき、第五中間点へと繋がるポータルゲートの蒼い光が俺達の勝利を祝うように灯る。
「やるやんけ、凶一郎君。今のはかなりイケとったで」
「はは、ありがとうございます。ガキさん」
俺の肩を叩く“龍生九士”の手。
一見すると細いイメージを抱きがちなガキさんの手の平はしっかりとゴツゴツしていて、頼もしかった。
「なんか掴んだん? そのペースで進めるんやったら相当化ける可能性あるよ」
分からない。ガキさんが認めるくらいなのだから実際に強くなっているのだろうが、その
「ガキさんは、知らない内に強くなってたみたいな経験ありますか?」
「ボク? ボクはどっちかっていうと理屈肌やからなぁ。
ガキさんがこのチームの片翼を担う天才の方に指を向ける。
「暇だったんで鉛筆転がしてたんですよ、こうコロコロと」
主の去った黄金の寺院で、己の体験談を話す恒星系。
「そしたら急に『
猫師匠の意見は、全く役に立たなかった。
◆皇都“龍心”禁域ダンジョン・肆の律『降東』・第五中間点・<正偽統合天城:オリュンポス・ディオス・パルテノン>城内
マウントタイプの召喚系天啓としては、およそ最高峰のスペックを誇る<オリュンポス・ディオス>であるが、しかし“彼”とて幾許かの
特に今回の探索の場合、ほぼ二十四時間近く<オリュンポス>の召喚を継続しなければならない都合上、天城のメンテナンスチェックをこちら側でやらなければならず、その時間はどうしても中間点で休まなければならなかった。
「トンテンカンカントンテンカン♪」
「みんなでお城を直しまショ♪」
「お石様の力で元気さん♪」
「空飛ぶお城♪ 楽しいお城♪」
天城の至るところで響き渡るご機嫌なメロディ。
城に配置された機神達と協力しながら、オリュンポスの修繕にあたるのは我等が愛すべき水色のぷるぷるさん達である。
ヤルダの皆さんは、喜んでオリュンポスの修繕作業に協力してくれた。
《無限増殖》、《完全情報共有》、《物質創造》の三特性を併せ持つプルプルさん達は、対価となる精霊石さえ支払えば、なんでも作ってくれるし治してくれる。
しかも『降東』の彼等は「一緒に遊んでくれるお礼です!」と言って、この旅におけるメンテナンス作業を実質タダで引き受けてくれているのだから、頭が下がるばかりである。
そういう諸々の事情も相まって、俺達は第五中間点での休息を表向きはいつも通りのスタンスで楽しんでいた。
姜子牙が陰陽眼を保有している以上、あまりにもあからさまな高速渡航は返って彼に余計な不興を買う恐れがある。
また、二十五層は彼があの“封印作戦”を実施すると約束した関所予定地でもある為、万が一道士が味方でいてくれた時の可能性も考えて空けておく必要があった。
午前十時半、つかの間の休息。
午後からのランチミーティングに備えて各々がそれぞれの過ごす中、俺は
「お腹痛い」
俺は盛大に
ストレスだ。間違いなく、絶対的に、異論なんて一切認めない程圧倒的な
ここ数日の過剰なストレス展開の連鎖爆発にとうとう俺のか弱い胃腸ちゃんがギブアップ宣言を出し、その結果俺のお腹はかつてない程に
「大丈夫、凶さん?
「……いい。勿体ない。ちょっと大目に胃腸薬と痛み止めのお薬飲んで我慢する」
遥のお陰でメンタル自体は何とかなっているのだが、身体はそうも言ってられないようなご様子でほんとに痛い。
ちくしょう、ランチミーティングまでに何とか治さないと。錠剤沢山飲んだら効き目良くなったりするかなぁ。
「そんな不健康なこと、あたしが許しませんからね! あっ、そうだ! だったらさ、ソフィちゃんのところ行こうよ! ソフィちゃんに頼めばきっとなんとかしてくれる筈だよ!」
救世主は本当にいるのだと、俺はこの時確信したね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます