第二百九十八話 冥府の支配者
◆
ダンジョン―――特に階層守護者の配置には、それぞれコンセプトというものがある。
例えば『常闇』は、あちらの世界で言うところの拝火教に属するカテゴリーの者達が中ボスを務めているし、『嫉妬』はやたらと大きな海洋生物が階層守護者の座を占めている。
『天城』の場合は更にコンセプトが凝っていて、《硬質化》という原始的な自己改造能力を持つ『ミノタウロス』に始まり、試作機の『ゴーレム』、二足歩行型の機動兵器としての『アポロ・コロッソス』、応用としての四足歩行型機動兵器『トロイメア』を経て、完成系の『タロス』に通じ、最終的にボスである『
では、俺達のいる『降東』、ひいては禁域ダンジョンのコンセプトは何なのか。
端的に言おう。
禁域は、方角と天部の
四方の禁域は、いずれも四十五層。
最終階層守護者の『明王』とボスラッシュエリアにあたる四十層を引きぬいた七つのボスエリアを五層の『四天王』、前半層の『十二神将』、後半層の『十二天』という形の配置で四分配し、それぞれの方角に応じた武の体現者達と
1:3:3:1=『四天王』:『十二神将』:『十二天』:『明王』
俺達は東の四天王である『
つまり次の階層守護者は、東に位置する『十二神将』の二柱目。
“辰”の配当、東南東の守護者、『
その
◆皇都“龍心”禁域ダンジョン・肆の律『降東』・第十五層
「行くぞ、会津」
「お手柔らかに」
周囲を湖で囲った半径二百メートルの
十二神将が一柱『
今回は訓練の兼ね合いで〈外来天敵〉を封じているから、尚の事
前衛は〈骸龍器〉を纏った俺一人、そして中衛に会津を置いて、後列を花音さんの盾で守りながら、その後ろにソフィさんを置いて適宜援護の術式をかけてもらう運びとなっている。
……後の二人? 隅の方で将棋盤を広げてるよ。今、猫ちゃんが「王手にゃ!」と敵陣で歩を叩いて、ガキさんに「それ二歩やで。反則や」と注意を受けているところだ。彼等について、特に言う事はない。是非そのままパチパチやっててくださいお願いします。
「今回はお前の活躍が鍵だ! 期待してるぜ妨害手」
「リーダーさんのご期待に添えるかどうかは計りかねますが」
黒衣のエージェントは、仮面の微笑みを浮かべる。
「出来る限りの尽力は、お約束いたします」
そうして俺達が神楽舞台の中心まで辿り着いた瞬間、
『
『
蒼黒の弓弦につがえた三本の矢。
その長さは一本につき
矢っていうのは通常、身体の中心から指先までの長さに+αを加えた数値が適正らしい。
ったく、どんだけデカイんだって話だぜ。マジで彼等と相対していると種族人間のスケールの小ささが身に染みてくる。
流石、武神様。
「
放たれし三本の巨神矢砲は極超音速で天を翔け、三方向の戦場に神威を散らす。
曲がり、くねり、上がって、下がって、縦横無尽に疾駆、疾駆、疾駆。
まるで生きているかのような自在さだ。
『心眼』――――ゲームでは、必中と確定クリティカルというえげつない特性を持っていた武芸者系統の常在発動型能力。
『
一本一本に運動エネルギー爆撃級の馬鹿でかい霊力が込められた「護神の矢」が極超音速で襲ってくるのは下手をしなくてもヤバ過ぎる。
『というわけで、アレの対処、頼んだわ』
『承知しました』
《思考通信》で交わした刹那の会話。
会津が動く。極超音速の世界で当たり前のように術式を固めながら、
『《
彼が言葉を発した瞬間、『冥府』の門が開いた。
昏き闇。直径五メートル大の“円”が、会津の頭上後方に浮かび上がる。
天輪。しかしその色は闇のように黒く、
闇はただ、そこに在った。
何か攻撃的な術式を発するでもなく、会津の背後を追従し、じっと、ただじっと、そこに在り続けて、
『…………!』
『
天を裂く三本の神威が、急速に進路を変えた。
その猛き挙動から「必中の理」がかき消され、機械的な動作で冥府の門へと飛び込んでいく『
まるでブラックホールの様だとオレは思った。
ブラックホール。万物を呑みこみ、光すら喰らう暗黒の天体。
《
しかしこいつが持つ力の由来は、引力ではない。
“逆必中”とでも言うべきなのだろうか。
旦那の銀河剣もそうだが、この手の法則吸収能力は、時として精霊のランクすら越えていく。
亜神級上位特殊神威型『
百地さんの『
闇とは何か。
悪の象徴。光の対義語。奈落。ブラックホール。心の影。混沌。瘴気。夜。影。虚無。黒。紫。目に視えないものへの根源的な恐怖。星々を呑みこむ宇宙の深淵。あるいは、全てを受け入れる暗がりの安らぎ。
ザッと挙げただけでもこの有り様だ。
結局のところ闇というモノはその根源にワケの分からなさを含んでいる為、よく言えば多義性に富んでおり、悪く言えば何か暗かったり悪そうなモノの大半につき纏う
十人十色。千差万別。
なまじ宗教色や精神的な側面を持つが故に、闇の解釈は、他のメジャー属性と比較しても特に幅が広い。
『
概念×死の
その門をくぐり抜けた先に在るものは、冥府の世界であり、あらゆる事象を一方的に殺す。
何もかもが黒に溶け、その意味を失う憂いの都。
かくして『
「エッぐいなぁ」
「防いだだけですよ。《
階層守護者が大弓を背に仕舞い、腰にかけた大刀を抜き、こちらへ迫る。
たった一撃、防がれただけでこの判断。
流石は心眼の主。物の見極め力が半端じゃない。
『
――――巨神の身体が
卓越した技巧と、神将の肉体から繰り出される完成された《
「とらせねぇよっ!」
大剣形態のエッケザックスを振り上げて、神将の攻撃を左方向にインターセプト。
未来視によるタイミングの制御に加え、ソフィさんの祝福で強化された〈
「(何度か合わせれば、【
未来視と【四次元防御】の合わせ技である【近接殺し】は、決まれば『アジ・ダハーカ』の龍鱗や『アポロヌス・アルティミシア』の双龍装甲すら吹き飛ばす強力なカウンター技だ。
当然、『
しかし……
「(再生するもんなァ、こいつら)」
装甲は
身体能力は鬼高で、技巧も神域。防御も高けりゃ、速度も一級品で、再生能力までついている――――ここまでが、奴等の
目立った弱点もなければ、遊びもない。
ギミックによる圧政ではなく、基礎ステータスの暴力で蹂躙してくるタイプ。
加えて、ただ強いだけの味気ない武人かと問われれば全くそんな事はなく、彼等十二神将にはそれぞれ固有の
『具戒洗浄』――――『
その効力は、『
元々武神達は、自前で再生能力を持っている為、言うまでもなくこの加護との
長引けば長引くだけ不利になる上、与える損壊性が大きければ大きい程発生する
だからこいつの攻略方法は、法外な出力をもった術式での
では、それを誰がやるか?
オレ? 花音さん? いいや、違う。
「【
未来視による先読みと盛りに盛ったステータスの押しつけで、白銀の巨神の動きを完全に抑えつけながら、会津の動きだしをサポートする。
見事な縮地だ。オレ達の速度域に完全に合わせたその上で、己の気配を見事に消し去った暗殺者ム―ヴ。
「(ったく、コレで
その手に握られた漆黒の大鎌が『
【
その能力とは、身も蓋もなく『即死』である。
なんだ、只の『即死』かと侮るなかれ。
ダンマギの、つまりこの世界の『即死』は、精霊の格の違いや耐性の壁すらも超えて発揮される死神の理に他ならない。
『
だから、当然のように『
即死だった。
刃が触れた瞬間、ぷつりと糸が切れたように崩れ落ち、そのまま光の粒子となって霧散。
「
これが会津・ジャシィーヴィル。
世にも稀少な“死の闇”を操る冥府の支配者。
「お前、普段どんだけ手を抜いてたんだよ」
「抜いてませんよ。ただ僕の属性は
彼はまだその実力の半分も、
「念には念をと自重していただけです。シミュレーションで死亡事故なんて笑えないでしょ?」
出し切っちゃいない。
―――――――――――――――――――――――
・死属性――――分かる人にだけ分かる例えで説明するとデ○モンアニメのエン○ェモン枠。実際のランクと比べて明かに桁違いの出力を持っていて驚異的な成功率で相手は○ぬをやってくる。全体攻撃は、亜神級最上位以上にならないとやってこない事だけが唯一の救い。
・《
・【
扱う闇の総量が大変大きい為、他の『冥府』スキルとの併用はできないが、全体型の法則使い並びに亜神級最上位はワンパンで消し飛ばせるため、言うまでもなくチートである。その上、どっかの誰かさんのように燃費が悪いわけでもなく、二発三発と連続使用も可能な為、本当にエグイタイプの即死技。会津のメインウエポンの一つである。
・遥さんのお風呂シーンフルカラー ――――なんとっ! 前話に出てきたお風呂シーンの遥さんを、本作のコミカライズ作者であらせられる横山コウヂ先生が【フルカラー】で描いてくださいましたっ!
こちら、暖房器具のX(旧ツイッター)並びに横山コウヂ先生のXから見る事ができるので是非一度ご覧頂ければ幸いにございます(肌色成分満載というか、肌色成分しかありませんぜっ!)
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