第二百六十九話 澄江堂我鬼
◆
“
中間点における拠点の手配から報告書の作成、果ては『宝物層』の管理まで。
冒険者クランの活動を影からサポートし、そしてダンジョンの利権を効率よく国に還元する
彼等は基本的にありとあらゆる社会的スキルが
そしてその上でダンジョンのボス戦で生き残れる次元の猛者でなければならない。
まさにエリート職。彼等を抱えているか否かでそのクランの格付けが様変わりする程の逸材。
そんな我々冒険者にとっての憧れとも言える存在が、我が“烏合の王冠”にやって来た。
それも二人、更に言えば
大変喜ばしい事だ。空からいきなり最強キャラ達が降って来たといっても過言ではない程の幸運だ。
しかし、俺はその幸運を素直に噛みしめる事はできなかった。
両者共に「恐ろしく強いが一筋縄ではいかない」という共通項を持った国の英雄である。
特にそう、今回俺達のチームに加わる事になった
◆『皇都』龍心・五つ星旅籠『花天月地』:第一宴会場
「どうもぉ。
壇上での紹介が終わり、それぞれの武装政務官が各々が担当する
うん。良かったね。その人未来でお前の心臓ぶち抜く予定がある人だけど、本当に良かったね。
「“
ガキさんのファーストインプレッションは、想いの外軽やかだった。
軽やかで丁寧。固くなり過ぎず、かと言って気軽過ぎず。
この手のキャラにありがちな「ボク、すっげーサイコパスなんですよぉ」アピールもなく、会津のような仮面を被った空々しさもない。
「年は一応今月で二十歳になりますー。君らんところで言ったら虚君とタメやねー。凶一郎君達とは一応五歳離れてるって事になるんやけど……なんや君めっちゃ大きうない? ほんまに中学生?」
「あはは、はい。一応中学三年生やらせてもらってます」
濃緑色――ほとんど黒色だ――髪の貴人から頂いた柔らかな
隣の島ではチャラ男が「あの、すいません。ヘイローちゃんって何カップですか!?」等とほざき散らかしていた。……うん。もうお前、今ここで撃たれちまえよ。
「(しかしこうして間近で見ると滅茶苦茶整ってんな、澄江堂ガキ)」
ダンマギの主要キャラは兎にも角にも見た目が良い。そしてガキさんもまた、そのご多分に漏れずちゃんとイケメンだった。
分類としては「線の細い長身美形」に属するタイプのイケメンで、公式設定に則るならばその身長は百八十一センチ。その独特の糸目と、鮮やかな墨色の和装飾が良い感じに強者感と美形感を両立させていて、一目見るだけで「こいつタダもんじゃねぇな」と分からされてしまう。
――――これが
「ポジションは大体どこでも出来るけど、強いて言うなら前側の方が得意かな。あっ、でもヘイローちゃんみたいな
申し訳ない、と冗談交じりに頭を下げるキツネ目の貴人。
俺はそれを聞いて、笑った。笑うしかなかった。
流石は“龍生九士”、色々とスケールがバグっている。
そして彼に真似できないと言わしめた霜平さんもまた別格だった。
サーチ能力や広域殲滅性という観点で見ればウチのチビちゃんの方に分があるとは思うが、こと
あの魔女め。よくもまぁ、これだけの人材をホイホイと。『花天月地』の拠点化といい、僅か一ヶ月足らずの準備期間とは思えない程の周到さである。
「とはいえ、口で言うてもあんまピンとこない思うんよ」
ガキさんは言った。
「幾らボクがコレできます、アレできますって説明したところで実際、見ない事には凶一郎君も作戦の立てようないやんか」
「まぁ、そうですね」
猪口に注がれた高そうな米酒をちびちびと嗜みながらガキさんが語った言葉には確かに「理」があった。
能力の把握と共有。
それはチームを組む上でいの一番にやらなければならない事であり、ここを怠るチームは例外なく痛い目を見る。
そしてウチらの商売はその“痛い目”が命の危険に直結するわけだから、是が非にでも
故に、
「せやから食後の運動も兼ねて、この後ボクと一戦交えてみません? やっぱこういうのは、実際やってみてこそやと思うんよ」
その時ガキさんが口にした“模擬戦”の提案は、俺達にとってまさに渡りに船だったのである。
◆『皇都』龍心・五つ星旅籠『花天月地』七階シミュレータールーム
空に浮かぶ桜島の旅籠、その七階層目に模擬戦室はあった。
「黄泉ちゃんが色々無理言って
そう語るガキさんの表情からは、黄泉さんに対する深い恋慕の念が――――
「ここだけの話しな、ボクあの子苦手やねん」
――――まるでなかった。
「ノリが合わヘンゆーか、ほら、黄泉ちゃんって一々
「ボクあぁいうタイプ無理やねん。
色々な意味で意外な一面だった。ゲームにおける
そんな彼がこんな風に表だって誰かの悪口を口にするなど、ましてやその相手があの黄泉さんだなんて、
「勘違いされたら嫌やからハッキリ言うとくよ。ボクはあの子の飼い犬やない。あの子がやろうとしている事にも全く興味がないし、“その時”が来たら間違いなく陛下の方につくよ」
意外にも程があった。
ならば、
「どうしてガキさんは、今回の一件に絡もうと思ったんですか?」
当然、この疑問符が生じる。
そしてその動機は、黄泉さんへの愛や義理に属するものではないらしい。
――――一瞬、ウチのドラゴン娘さんの顔が脳裏をよぎったが、恐らくはそれもない。
もしもナラカが気になるのであれば俺のチームを選ぶ理由がないし、ゲーム時代に至ってもあの二人が所謂「カップリング要素」を想起させるような特徴的な絡み方をしていたわけでもない。
なら、どうして?
「まぁ、その辺はおいおいね」
準備を済ませたキツネ目の貴人がスッと立ち上がり、指名した対戦相手に向かって手招きをする。
「それじゃあ、
「はいっ!」
そう応じた恒星系の顔に宿っていた感情は、言うまでもなく
◆仮想空間・ステージプレーン(ラージフィールド)
四方が電子の白壁に囲われた仮想世界のフィールドに、二人の化け物が並び立つ。
青龍の方角に立つのは、蒼い瞳の恒星系。浴衣からバトルコスチュームに着替えた我等が蒼い猫ちゃんは、ゴロゴロと楽しそうに喉を鳴らしながら、仮想の地面を快活に跳ねる。
「にゃーにゃー、にゃにゃんっ♪」
良い表情だ。大変やる気に満ちてらっしゃる。何だかんだ言って遥は強い奴と戦うのが好きなのだ。しかも相手は初見かつこの国屈指の使い手。
武芸者ならば、興奮せずにはいられない程の絶対的強者。
「いやー、遥ちゃん。すごいなぁ。その年で『
語る言葉に嘘偽りなし。しかし彼は、蒼乃遥を正しく認識した上でなお、飄々と笑っていた。
白虎の方角、
構えはない。ただ握りしめるだけ。しかしその無造作さが、却って彼の不気味さに拍車をかけている。
そこには、俺の良く知る彼の姿があった。
不気味。不安。片時でも彼の存在を忘れてはならないとモニター越しの登場人物達に呼びかけ続けた
『
「一応聞いとくけど、ハンデとかいる?」
「ぜんぜんっ!」
遥は勝ち気に微笑みながら、二刀の刃を抜いた。
『蒼穹』と<龍哭>、熱術と物理的硬度に重きを置いた対龍戦の
胸を借りるつもりではなく、
気負いはない。たとえ“龍生九士”が相手でも蒼乃遥はいつも通りだ。
宙空に光るカウントダウンの文字数列。
その数が十を切り、八を過ぎ去り、五を迎えて、
「澄江堂家現当主兼『
「クラン“烏合の王冠”所属冒険者兼清水凶一郎のお嫁さん、
そうして高らかに開幕の音を告げるブザー音が鳴り響いた次の瞬間、仮想の世界に千を越える攻防が煌めいた。
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